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性と生殖に関する健康および権利を十分に享受できているか否か。これは、何十万人という女性や思春期の少女達にとって、命にも関わる大きな違いです。この差が、妊娠中や出産時に回避可能な原因により命を失ってしまうか、無事出産するか、という違いにつながる場合があります。望まない思春期の妊娠を余儀なくされるか、勉学を続け自立的生活を送るか、という違いを生む場合もあるでしょう。性と生殖に関する健康および権利を十分に享受することは、周囲の社会環境や個人のアイデンティティ、社会的地位を問わず、どのような人であれ、性的暴力や性感染症、社会的偏見を怖れることなく、安全で満ち足りた性生活を営む力を得ることなのです。

今年はウィーン世界人権会議から20周年という記念すべき年です。同会議において、すべての人のすべての人権を促進・擁護する活動が改めて活発化し、そうした活動を開発と両輪で進めていくというビジョンが掲げられました。ウィーンでは、世界中のリーダーが「女性の権利とは人権である」と主張し、女性に対する差別や暴力行為を人権に関する議論の最重要課題としました。

翌1994年、カイロ国際人口開発会議において、ウィーンでのメッセージを改めて強調するとともに、性と生殖に関する健康および権利を人口開発政策の中心に据えるべきであると強く主張しました。この人権に基礎を置くアプローチが、今日までの国連人口基金の活動の指針となっています。

過去20年間、性と生殖に関する健康の情報や教育、サービスの利用向上活動により、無数の女性、少女、男性、少年の生活に持続的変化がもたらされました。

ネパールから南アフリカ、コロンビアに至るまで、また世界中の多くの地域において、人権に関わる法の壁を取り除き、差別的な社会規範に挑むことによって、何百万という人々―その大部分が思春期の少女たちや若い女性―が、最近まで手にすることができなかった基本的社会福祉サービスを利用できるようになりました。公共サービスが最低限の水準に達していなかった場合や市民の声が無視された場合、市民社会は政府に対して改革を要求し、その責任を問うために結集したのです。

このように進展が見られていることは間違いありませんが、一方で、酷い不平等が依然存在することや、多くの女性、少女、民族的・宗教的少数派、周囲から奇異の目で見られている人々にとって、声を上げることは危険な選択肢であることも、我々は日々思い知らされています。

性と生殖に関する健康および権利は普遍的人権です。そして、より広範な人権と開発の両立に欠かせない要素です。生と生殖に関する健康と権利は、個人としてのアイデンティティの最も深い部分に関わるものであり、自身の肉体や欲望、願望をコントロールすることによる「人間の尊厳」を可能にするものです。それ故に、生と生殖に関する健康と権利には特別な力があるのです。そのエンパワーメントの力は、まず家庭内で発揮され、コミュニティ、国家、さらには世界レベルへと拡大していくでしょう。

世界では2015年以降の開発アーキテクチャの策定が進んでいますが、カイロおよびウィーンで定められたアジェンダは、20年前同様現在もその意義を失っておらず、相互に補強しあう関係にあります。20年前に国連加盟国間で取り交わされた約束―あらゆる人権を促進・擁護し、性と生殖に関する健康および権利を自由に享受できるようにすること―を守ることこそ、皆が開発による恩恵に携わり、分かち合う力を持つ世界、あらゆる人に等しく価値を認める世界においてあらゆる人が威厳ある幸福な生活を送るための、最も確実な道なのです。

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