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世界エイズデーである今日、まずは国際的なエイズ対策に大きな進展が見られることをご報告したいと思います。現在、私たちは「新たなHIV感染ゼロ、差別ゼロ、エイズによる死亡ゼロ」という目標に向かって歩みを続けていますが、新規HIV感染数が世界的に減少し続けており、またより多くの人々が抗レトロウイルス治療を受けられるようになったことから、エイズによる死亡者数は減少しています。

しかし、そうした進展や勢いも、一時的な現象に終わってしまう可能性もあります。不平等、社会的疎外、否定的なレッテル、差別という障害が立ちはだかり、女性や若者を含む極めて多くの人々―特にHIV感染リスクの高い集団の人々(key populations)に、救命サービスや必需品が未だ行き届いていません。端的に申し上げると、障害の多い環境によって、特に若者や弱者が自身の人権を行使することを妨げられ、能力を最大限に発揮する道を閉ざされているのです。

現在、一日に6,300人が新たにHIVに感染しています。そのうち約40%が15~24歳の若者であり、その大部分は若い女性です。また、HIVは、生殖可能年齢にある女性の死因の第1位であり、妊産婦の死因の20%以上を占めています。

高品質で若者にも分かりやすいHIV対策サービスおよび性と生殖に関する健康サービスが十分に行き届いていない、というのは大きな課題です。2005年から2012年までの間に、エイズによる死亡件数は全世界で30%減少しているものの、若者HIVによる死亡件数は50%増加しています。1時間に50人の若い女性が、新たにHIVに感染しています。また、世界各地で、思春期の妊娠により、未来ある少女たちの可能性が損なわれてしまう事態が発生しています。途上国においては、一日に20,000人もの18歳未満の少女が出産しています。私たちは、HIV予防対策および、性と生殖に関する健康関連のサービスの利用機会を一層充実させていかなければなりません。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)では、親密なパートナーによる暴力が女性のHIV感染リスクを高めると推算しています。薬物使用者、セックスワーカー、トランスジェンダーなど、HIV感染リスクの高い集団に属する女性は、特にジェンダーに基づく暴力を受ける可能性が高まります。また、紛争地帯や災害地域の女性や少女は、性的暴力の被害を受けやすく、したがって、HIV感染リスクも高まります。

国連人口基金では、こうした問題を「ゼロ」にする一番の近道は、すべての女性や若者性と生殖に関する健康ニーズに全力で応えていくこと、そして、HIV感染リスクの高い集団に属する人々が性と生殖に関する健康関連サービスやHIV予防策を利用する妨げとなっている、男女不平等や性に基づく暴力、差別、否定的なレッテルの撲滅に努めていくことだと考えています。

少なくとも67の国々において、若者HIV予防サービスを受ける妨げとなる法律または条例が存在しています。また、世界の60%の国々において、法律、条例、政策によって、HIV感染リスクの高い集団や弱者層が効果的なHIV予防、治療、ケアを受けられなくなっています。

性と生殖に関する健康関連サービスとHIV対策サービスを一本化することにより、誰もが、健康的な選択をするのに必要な情報とサービスを自由に利用できるようになります。また、HIVその他の性感染症予防にも重要な意味を持つでしょう。加えて、安全性の高い性行為―単にコンドームを利用するというのでは十分ではありません―を相手と交渉できるように、女性や少女のエンパワーメントを育んでいかなければなりません。男性や少年は、男女不平等を是正するパートナーとして積極的に関わっていく必要があります。

こうした理由から、国連人口基金では、今後もパートナーとともに、女性や若者HIV感染リスクが極めて高い人々に対して、総合的健康サービスを提供するとともに、そうした人々の人権が認められるよう声を上げていきます。

問題を「ゼロ」にするということは、HIVに感染しないことを含む、すべての人々の健康や福祉に対する普遍的人権を擁護していくことに他なりません。この活動には、すべての女性と若者の権利とニーズをグローバル開発アジェンダの中心に据えることへのコミットメントが含まれるでしょう。すべての人に価値があり、権利があることをしっかりと認識することで、「ゼロ」という目標への道がひらけるのです。その実現に向けて共に努力していきましょう。

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