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UNFPA事務局長ナタリア・カネムは、世界人口白書2020の発表に際し、声明文を発表しました。

 

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声明文

 

ナタリア・カネム

UNFPA Executive Director

国連人口基金(UNFPA)事務局長

 

世界人口白書2020

自分の意に反して:女性や少女を傷つけ平等を奪う有害な慣習に立ち向かう

 

想像してみてください。彼女は12歳で学校が大好きです。学校の先生によれば彼女には数学の才能がありました。ある朝、彼女が目を覚ますと、両親から一番良い服を着るように言われました。数時間後、彼女は近所に住む3倍以上も年上の男性と結婚することになっていました。彼女はもう学校に戻ることはできません。

 

想像してみてください。彼女は16歳。ある日彼女が目を覚ますと、村における大人の仲間入りのための儀礼を受けることになってしまいました。数時間後、彼女の性器は、村の女性に切除されました。その女性は村の全ての少女の女性性器切除を行っていました。

 

想像してみてください。彼女は4歳。彼女は、息子がいないことがどれほど呪われているかと両親が話しているのを耳にしました。両親は、自分たちの娘は重荷以外の何ものでもないと不満を言っています。

 

しかし、UNFPAの「世界人口白書2020」が示すように、このような光景を想像する必要はありません―なぜなら、これらはすべて現実だからです。何万回も起こっていることなのです。世界のどこかで、毎日。

 

この白書では、ブレスト・アイロニング(胸の成長を妨げて性的被害から守るため、熱した石やハンマーを少女の胸に押し当てること)から処女検査(処女膜が無傷かどうか確かめること)に至るまで、少女や女性に対する虐待や人権侵害としてほぼ全世界で糺弾されてきている、少なくとも19の具体的な慣習を挙げています。

 

その中でも、特に3つの慣習が世界で根深く蔓延しています。

●女性性器切除(Female Genital Mutilation:FGM)

●児童婚

●ジェンダーに基づく出産時の性選択(男児選好)

 

こうした慣習が人々に引き起こす犠牲は、とてつもなく甚大なものです。

 

今年1年で、世界中で400万人以上の少女がFGMの危険にさらされています。

今日1日で、3万3,000人の少女が結婚を強制されています。

 

何十年にもわたって行われてきたジェンダーに基づく出産時の性選択や、息子に比べて娘を育児放棄することによって、今日、世界の人口から1億4,000万人もの少女が「消失」しているという衝撃的な事態が起きています。

 

男性の数が女性の数をはるかに上回る場合、レイプ、強制性交、性的搾取、人身売買、児童婚など、深刻化したジェンダーに基づく暴力という社会問題を引き起こします。

 

これらの様々な有害な慣習に共通しているのは、ジェンダーの不平等や女性の身体や命を支配したいという欲望に根差している点です。

 

こうした慣習は、個々の女性や少女に壊滅的な被害を与えていますが、世界全体、そして将来の世代に与える被害は、さらに大きいものでしょう。

 

女性と少女の健康や教育、人間としての可能性が損なわれれば、人類全体も同様のものを失うことになります。

 

こんなにもたくさんの少女と女性が…

●必要とされず、

●傷つけられ、

●消し去られ、

●差し出され、

●売買されるのであれば…

 

...私たちの共通の未来も蝕まれることになります。

 

怒りをぶつけようではありませんか。

 

国際社会は、有害な慣習を容認しないと圧倒的多数で同意しています。何十年にもわたる国際条約やその他の文書では、政府、地域社会、そして個人に対して有害な慣習の撲滅を求めています。

 

各国政府はすでに有害な慣習に終止符を打つための措置を講じており、多くの場合、それらを禁止する法律を制定および施行しています。しかし、法律はあくまで出発点に過ぎません。そして、場合によっては、法律によって、そうした慣習が人目のつかない所でこっそりと行われるようになってしまうという思わぬ結果をもたらすこともあります。

 

何十年にもわたる経験と調査から、ボトムアップで草の根のアプローチをする方が、変化をもたらすためにはより適していることがわかっています...

…なぜなら、コミュニティ自らが変革するのが、最も効果的だからです。

UNFPAの役割は、有害な慣習の身体的・心理的負担、そしてそれらが根絶されたときにすべての人にもたらされる恩恵について、少女の親たちの理解を促進することで、コミュニティを支援することです。

 

根本的な変化は、その変化を持続的なものにします。

 

同時に、私たちは根本的な原因に対処して、課題を解決する必要があります。

 

ジェンダーに基づく差別と有害な慣習は、偏った規範と固定観念の上に成り立っています。規範や固定観念は単なる思想ではあっても、強力で破壊的な力となりえます。それと同時に、思想であれば、たとえどれほど深く根付いていようとも変えることができます。

 

かつて、韓国、シンガポール、チュニジアでは男児選好が強く、男性の数が女性の数をはるかに上回っていましたが、近年こうした考え方が変化してきました。

 

私たちは、社会において従属的な立場に置かれている女性や少女の地位を改善しなければなりません。この点で、男性には特別な役割があります。より多くの男性が、その特権を活用して少女の価値を高め、平等な待遇と平等な権利を要求する必要があります。その方法が効果的だと言えるのは、UNFPAがニジェールで行っている、男女平等の社会規範を促進する「夫のための学校」の支援が成功しているからです。

 

経済や法制度を、すべての女性に平等な機会を保障するために再構築しなければなりません。バングラデシュやエチオピアなどの国々では、少女や女性がより良い経済的選択肢を持てるようになると、児童婚や男児選好といった有害な慣習が減少し始めたという実例があります。

 

UNFPAの目標は、この10年の終わり(2030年)までに有害な慣習を撲滅することです。これは国際社会の目標でもあり、国連の持続可能な開発目標のターゲットでもあります。

 

私たちは、効果的な取り組みへの投資を強化する必要があります。そうでなければ、目標を達成することはできません。

 

私たちの目の前には、まだ長い道のりがあります。有害な慣習が減少している一方で、主に人口の増加により、その対象となる少女の絶対数は増加しています。

 

UNFPAの世界人口白書は3つのキーワードでまとめられます。

 

尊重:私たちは、女性と少女を非人間的に扱い商品化している、凝り固まった文化に根差した態度や慣習を変えることで、女性と少女に対する尊重を育まなければなりません。これは、不平等の根元を断ち切り、少女の自律性を尊重することを意味します。

 

保護:私たちは、児童婚やFGMのような有害な慣習を禁止する法律を制定・施行することで、また態度や行動規範を変えることで、女性と少女を保護しなければなりません。保護者はこうした慣習が長年に渡って少女に害を与えることを理解し、反対する立場でなければなりません。

 

実行:各国政府は、FGMや児童婚の撲滅を求める人権条約の下で、義務を果たさなければなりません。

 

これら3つのキーワード―尊重・保護・実行―は、女性と少女のために真の変化と真の結果をもたらします。

 

すべての少女が完全に権利や選択を享受でき、自らの身体を完全に自分のものとするまで、私たちは立ち止まるわけにはいかないのです。そして、COVID-19のパンデミックでさえも、私たちの邪魔をさせる訳にはいきません。

 

世界人口白書2020は、COVID-19の危機の規模と、それが女性と少女の健康と権利に与える影響が明らかになる前に完成しました。

 

有害な慣習をなくすための国内および国際的な取り組みが、パンデミックのために縮小したり中断されたりしていることが、調査結果から明らかになっています。

 

COVID-19の影響で、FGM撲滅のための事業が6か月中断された場合、今後10年で200万人の少女がFGMを受ける可能性があります。

 

また、COVID-19の影響で児童婚をなくすための取組が中断された場合、2020年-2030年の間に、さらに1,300万件の児童婚が発生する可能性があります。

 

パンデミックは確かに私たちの支援を困難なものにしていますが、同時に未来を再考する機会でもあります。10年後の新たな現実の中で、冒頭で想像した12歳の少女は、傷つけられることなく生き、自分の運命をコントロールする力を持っているかもしれません。

 

それは、日々戦う価値のある世界です。

何百万人もの少女の未来は、私たちにかかっているのです。

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【関連ページ】

 

声明文の本文(英語)

 

世界人口白書2020の特設ページ