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アナン国連事務総長の諮問委員会「ミレニアム・プロジェクト」が17日に公表した報告書には、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)の保障が経済成長と貧困削減には欠かせないとする提言が盛り込まれ、トラヤ・オベイド国連人口基金事務局長は歓迎の意を表した。この諮問委員会は、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授を委員長とする開発の専門家からなる独立委員会で、今回の報告書は開発途上国の貧困削減に関し提言を行なっているほか、3年以内に効果がでるとされる具体的な政策を列挙し、「ミレニアム開発目標(MDGs)」として掲げられた目標を実際に達成する上での指針になるとされている。

「ミレニアム・プロジェクト」は、2000年9月に採択された「ミレニアム開発目標」の達成に向けた具体策を検討する諮問委員会で、ジェンダーの平等の確立や女性・少女の健康促進、女性の教育、政治的・経済的機会の平等、財産権の保障、暴力からの自由などは具体策の一部として当初から検討されていた。今回の報告書は、ジェンダーの不平等を是正することは「ミレニアム開発目標」達成には欠かせない投資であると強くうったえるとともに、リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)の保障や家族計画そして女性のエンパワーメントを促進し、構造的な変化をもたらすことが重要だとしている。特に貧困国では、適切な家族計画によって子どもの健康、栄養、教育により多くのお金をかけることで、その国全体の貧困削減に効果があるとされている。また報告書では、アフリカ、中東、アジア地域のいくつかの国では女性や少女の法的、政治的、社会的地位の向上にむけて多大な努力が必要だとしている。

報告書で挙げられた「3年以内に効果がでるとされる具体的な政策」には次のようなものがある。

•リプロダクティブヘルス関連の情報とサービス、特に家族計画と避妊の情報とサービス、を拡充し、サービスや情報のアクセス向上に力を入れる。
女性のエンパワーメントを促進し、貧困削減などの重要な政策決定に女性の参加を促す。
•女性の財産権・相続権の保障を徹底するための法律改正を行なう。
•女性に対する暴力削減に向けた国家主導プログラムを実施する。
•公教育を無料化する。
また報告書は、先進国をはじめとするドナー国の資金支援が妊産婦保健やジェンダーの平等そしてリプロダクティブヘルスなどの分野に十分にわたっていない現状も浮き彫りにした。特に、妊産婦死亡は多くの地域で依然高い値を示しており、問題に対する関心の低さとともに緊急産科ケアなどの生殖に関する医療サービスや情報が不十分であると指摘されている。

報告書は、結論として、個人が生産的な生活を送れるようになることが「ミレニアム開発目標」の達成であるとし、そのためには人的資本、インフラ、政治的・経済的・社会的権利の保障の3つが必要だとしている。人的資本を支えるものとしては、栄養、医療、リプロダクティブヘルス、教育が挙げられている。また、権利の保障は、平等権、リプロダクティブライツ、暴力からの自由、参政権などが最も重要であるとされている。

こうした女性に焦点を当てた提言が報告書に盛り込まれたことを受けて、オベイド国連人口基金 事務局長は、「この諮問委員会報告書が、1994年にカイロで開催された国際人口開発会議での合意内容を反映しているのは明らかです。カイロ合意の中の『すべての人にリプロダクティブヘルス/ライツを保障する』とする項目が、貧困削減と開発には欠かせない要素であることは今回の報告書でいっそう明確になりました。特に、報告書で女性の役割が強調されていることは、今年で10年目を迎える北京会議の精神とも共通するものです」との声明を発表した。同じ声明の中で、オベイド事務局長は、「20世紀は政治的差別の終焉に取り組んだ世紀でした。今世紀、世界が極度の貧困を半減するという目標を掲げる中、先進国と開発途上国は力をあわせ、女性に対する差別や偏見そして暴力をなくしていこうではありませんか。そして、21世紀を性の差別の終焉に取り組む世紀としようではありませんか」と述べ、ジェンダーの平等に向けた国連人口基金のさらなる貢献を誓った。