妊産婦の健康
毎日、800人以上のお母さんが妊娠や出産が原因で命を落としています。母親の死亡により、家族は崩壊し、残された子どもは健康に育つことが難しくなります。また、死亡に至らないまでも、妊娠や出産によって慢性の感染症やフィスチュラ(産科ろう孔)などの深刻な合併症を発症し、生涯苦しむお母さんの数は、その20倍にも及びます。
妊娠や出産が原因で死亡するお母さんは年間数十万人にも及び、その90パーセントはアフリカとアジアで起きています。亡くなるお母さんのほとんどは、出血多量、感染症、子癇 、分娩停止、安全でない人工妊娠中絶などが原因であり、これは全て予防可能なものです。
お母さんの命を守ることは、人権の保障に係る問題です。またお母さんの死は、社会経済的に大きな影響を及ぼします。また、お母さんの命を守ることは、国際開発における、重要優先課題となっています。1994年開催の国際人口開発会議(ICPD/カイロ会議, 1994年)と、ミレニアム開発目標(MDGs, 2000年)で、1990年から2015年の間に妊産婦死亡を75パーセント減らすという目標を掲げています。この目標を達成するためには、次の3つの戦略が鍵となっています。
- 意図しない妊娠を避けるために、また、出産間隔をあけて安全な妊娠・出産を確保するために、すべての女性が、避妊する手段を持ち、それを効果的に利用することができる。
- すべてのお母さんが、出産時に、産婦人科医や助産師による専門的なケアを受けられる。
- 合併症を患う女性すべてが、良質な緊急産科ケアを必要な時に受診できる。
中国、キューバ、エジプト、ジャマイカ、マレーシア、スリランカ、タイ、チュニジアなどの国々では、妊産婦死亡率が大幅に減りました。それは、より多くの女性が、家族計画を実行し、そして緊急産科ケアを行える産婦人科医や助産師などの専門技能師の立会いの下での出産が可能になったからだといえます。これらの国々の多くは、10年間で妊産婦死亡率を半減させています。特に、専門的訓練を受けた助産師の存在が成功の鍵であったと言われています。しかし、多くの国では、助産の訓練を受けた保健提供者が非常に不足しており、それが妊産婦死亡率がなかなか下がらない理由となっています。
国連人口基金は、「妊産婦の健康を守るイニシアティブ」を、1987年より89カ国で実施しています。特に力を入れているのは、人材育成などの、妊産婦のケアに関する能力強化です。また、人道的支援が必要な危機的状況下では、女性が社会的に非常に弱い立場に追いやられる可能性が多いので、できる限り安全に、妊娠、出産できるように活動をしています。国連人口基金は、フィスチュラ予防のための活動を通して、出産時期に女性が必要なサービスや、物資を入手できる保健システムの必要性を訴えながら、妊娠や出産をより安全にするために貢献しています。
2008年に国連人口基金は、協力機関と共に、「妊産婦の健康を守る基金」を設立しました。この基金は、保健システムを強化することでより幅広く質の高いお母さんのための保健サービスを提供し、すべての人が公平にそのようなサービスを享受できることを目指しています。また能力強化を通じて女性の社会的地位を向上させることで、女性の妊娠や出産に関する健康を守る権利の保障も推進しています。そのほか国連人口基金は、より安全な妊娠・出産を推進するため、「性と生殖に関する健康(SRH)に関する支援物資確保のためのグローバル・プログラム」や「フィスチュラ撲滅キャンペーン」を実施しています。
日本では2009年6月から2010年7月11日まで、国連人口基金東京事務所がパートナーNGOや協力団体と共に「お母さんの命を守るキャンペーン」を実施しました。