2016年1月
ジュネーブ
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)・国連人口基金(UNFPA)・女性難民委員会(WRC) 共同プレスリリース
ヨーロッパに向かう難民女性が性とジェンダーに基づく暴力を受ける危険についての調査報告
サハラ以南のアフリカ出身の若い女性オウモ*は迫害を受け、義理の兄が亡くなり、姉が行方不明になったのを機に避難を決意した。死の恐怖に怯えた彼女は、ヨーロッパに庇護と安全を求めて、危険で困難な旅に出発した。ギリシャへの旅の途中、ボートに乗るためと偽のパスポートを入手することと引き換えに、性的交渉を2回強制された。ギリシャに着いた時には、シェルターもなく屋外で寝泊りしなければならず、プライバシーも守られない、援助も受けられない状態だった。「気が狂ってしまうのではないかと怖かったわ」と彼女は語った。
国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)、国連人口基金(UNFPA)、そして女性難民委員会(WRC) は、オウモや彼女のようにヨーロッパへ渡ろうと試みる難民や移民の女性と少女たちが、深刻な危険にさらされていることを懸念している。
厳しい冬の気象条件のため、今月はこれまでと比べ、ヨーロッパに渡る危険な海の旅を試みる人は少ない。それでもなお、1日平均2000人もの人々が海を渡っている。そして、各国政府が規制や国境警備を強化しているため、難民の受け入れや一時滞在施設はさらに混雑を極め、緊張状態になり、女性や少女たちの身の危険が増すことが予想される。絶望した難民や移民たちは、違法な密入国斡旋業者に頼り、さらに危険なルートを選ぶ傾向にある。
2015年6月時点で海を渡り欧州に辿りつく人のうち27%を女性や子どもが占めていたのに対し、2016年1月15日現在、その数は全体の55%を超えている。東地中海と西バルカン諸国を超えるルートにおける人道支援活動は、性とジェンダーに基づく暴力(SGBV)の予防を中心に行うことを優先している。しかし、このような暴力を予防し、特定し、さらに適切に対応できるか否かは、それぞれの国や欧州連合の機関の責任と対処能力に大きく委ねられている。
国連難民高等弁務官事務所と国連人口基金、女性難民委員会は、2015年11月に、ギリシャとマケドニア旧ユーゴスラビア共和国における難民、移民の女性と少女たちが直面する危険に関する現地調査を共同で行った。後述の現場報告書は、「単独または子ども連れの単身女性や、妊娠中または授乳中の女性、思春期の少女、保護者のいない子ども、児童婚をさせられた子ども(時に新生児を抱えている場合もある)、障がい者、高齢者は特にリスクが高いため、組織的かつ効果的な保護対策が必要とされている」と報告している。これは、上記の三団体が現地で複数回行った共同調査を基に、問題を正確に調査し、それらに対し具体的にどのような対応をすべきかということを提示した最初の報告書である。
多くの難民や移民の女性や少女たちは、自国で、最初の避難所、またはヨーロッ パに向かう旅の道中またはヨーロッパに渡った後もなお、様々なSGBVをすでに経験している。この調査でインタビューを受けた何人かの女性は、渡航書類や、旅費の"対価を払う"ために望まない性交渉を行うことを余儀なくされたと語った。ヨーロッパに一刻も早く辿りつこうとするあまり、被害者本人も、その家族も、こうした暴力犯罪について通報したり、適切な医療行為を求めることを拒否する。
「人道支援において、紛争や迫害の被害者たち、特に女性や思春期の少女たちの健康や権利は、単なる補足事項のように扱われるべきではない。国連人口基金は パートナー団体と共同して、女性の難民や移民がセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)サービスにアクセスし、ジェンダーに基づく暴力にあわないための活動を行っている」と国連人口基金事務局長ババトゥンデ・オショティメインは語る。
「自分たちだけでヨーロッパに渡ろうとする多くの女性や少女は、家族やコミュニティから保護を受けられない状態にある」とUNHCR欧州局長、ヴィンセント・コシュテルは語る。「たとえ家族と旅をしていても、暴力を受ける危険にさらされている。多くの場合、犯罪にあったことを報告しないため、必要な支援も受けられない。途方にくれ、望まない結婚をしてしまう女性もいる」と訴えた。
「ヨーロッパにおける受け入れ施設はSGBVの防止やその対応のための設備が整っておらず、そのため女性や少女は与えられるべき保護を受けることができていない」私たちは、SGBVの専門家を派遣するなど、難民の助けになる介入を行うべきである」と女性難民委員会代表のサラ・コスタは語る。
今回の合同調査により、政府、人道支援団体、欧州連合機関、市民、社会団体による対応は不十分であり、ヨーロッパにおいて女性や少女にふりかかる危険や搾取、あらゆる形態のSGBVを防止する上で不適切であることが明らかになった。例えば、国連難民高等弁務官事務所とそのパートナー団体との協力で、男女別の受け入れ施設やシェルター確保のための試みが行われている一方で、依然多くの避難場所でプライバシー、水と衛生、健康設備、女性や少女が安心して眠れる場所がなく、性暴力の危険に晒されている。この共同調査は、市民社会団体と人道支援を行なうパートナー団体が、SGBVを防止し、それに対応する設備を全ての部門(例えば、法的手助けと心理社会的な支援、水と衛生、シェルター、 健康など)において導入する必要性を提示している。
また、今回の報告書は政府と欧州連合機関に対して、いくつかの重要な提言を示している。
• 女性や少女保護を目的とした国内外における調和のとれた対応システムの構築
• 保護が必要である事態を認め、特にSGBVを防止し、特定し、対応するための人員、手続きの導入
• SGBVを受けた女性がその報告や、支援サービスを確実に受けられるような対応策を作ること
• 特に女性や子どもたち、SGBVの被害者を対象にした家族との再会、また避難場所の移転や再定住支援を優先するなど、保護のための法的枠組みの整備
* 本人が特定されないよう、本文中では仮名の「オウモ」を使用。