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7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』日本語版発表記念オンライン・イベント 思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 開催レポート

7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』日本語版発表記念オンライン・イベント 思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 開催レポート

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7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』日本語版発表記念オンライン・イベント 思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 開催レポート

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7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』日本語版発表記念オンライン・イベント 思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 開催レポート
7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』日本語版発表記念オンライン・イベント 思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 開催レポート

 

7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』

日本語版発表記念オンライン・イベント

思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 開催レポート

 

 

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世界人口デーである7月11日、オンライン・イベント「思わぬ妊娠の前後左右 いろいろな選択と自己決定権」が開催されました。このイベントは『世界人口白書2022』日本語版の発表を記念して、国連人口基金(UNFPA)駐日事務所、NPO法人 女性医療ネットワーク、SRHR Initiative(研究会)(五十音順)の3団体が主催したもので、申込みは満席の507名、当日はおよそ325名以上の方が参加しました。

 

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プログラム開催概要

7月11日世界人口デー『世界人口白書2022』日本語版発表記念オンライン・イベント

思わぬ妊娠の前後左右 ―いろいろな選択と自己決定権― 

 

日時:2022年7月11日(月)世界人口デー

開催方法:Zoomウェビナー

 

●プログラムおよび登壇者一覧(敬称略)

司会:池田裕美枝(女性医療ネットワーク・SRHR Initiative)

 

開会の挨拶:

・イブ・ピーターセン(国連人口基金事務局次長)*ビデオメッセージ

・対馬ルリ子(女性医療ネットワーク理事長・産婦人科医)

 

来賓挨拶: 

・上川陽子(国際人口問題議員懇談会(JPFP)会長・衆議院議員)

・赤堀毅(外務省地球規模課題審議官)

 

『世界人口白書2022』解説:

・佐藤摩利子(国連人口基金駐日事務所長)

 

日本における“意図しない妊娠”の現状:

・中島かおり(NPO法人ピッコラーレ代表)

 

パネルトーク:

ファシリテーター:宋美玄(産婦人科医)

パネリスト(五十音順):

・石井光太(ノンフィクション作家)

・坂井恵理(漫画家)

・高橋幸子(産婦人科医)

・中島かおり(NPO法人ピッコラーレ代表)

 

閉会の挨拶:

・阿藤誠(国立社会保障・人口問題研究所名誉所長、「世界人口白書」監修者)

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イベントの冒頭では、司会を務めたSRHR Initiative(研究会)代表の池田裕美枝より、本イベントの開催意義について説明しました。

 

池田:『世界人口白書2022』では「見過ごされてきた危機 意図しない妊娠」をテーマに、世界の状況について報告されています。本日のイベントは、私たちが暮らす日本社会における“意図しない妊娠”の状況と、現実を変えるためにこれからどんなことができるのかをディスカッションするために企画されました。

 

●開会の挨拶:イブ・ピーターセン(国連人口基金事務局次長)

 

『世界人口白書2022』において発表された、世界の妊娠のおよそ半数が意図しない妊娠であることに触れ、日本のリーダーたちに呼びかけました。

 

 

イブ:意図しない妊娠により少女は退学を強いられ、女性は職場を追われてしまい、その結果貧困が深刻化し、次世代に負の影響を与え、保健医療制度に多くのコストがかかっています。この危機はあまりに日常的に起こっていることであり、これまで見過ごされてきました。UNFPAは世界中のリーダーたちに、女性と少女のための選択肢と資源を拡大させ、女性たちの価値を高め、その声に耳を傾け、彼女たちが必要とする避妊具と情報に投資することを呼びかけています。それがからだの自己決定権をサポートすることになるのです。UNFPAはこれからも、日本政府、JPFP、その他のパートナーと、持続可能な開発目標(SDGs)のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)とジェンダー平等の実現のために協力していきます。

 

●開会の挨拶:対馬ルリ子(女性医療ネットワーク理事長・産婦人科医)

また、1980年代から産婦人科医として女性の自己決定権をサポートしてきた、女性医療ネットワークの対馬ルリ子から挨拶がありました。

 

対馬:過去の産婦人科医療では、女性の自己決定は重んじていられてない背景があったと思います。しかし近年の日本では、フェムテックなどの産業上のブーム、ジェンダー格差の見直しが進み、女性が働きやすい、出産しやすい、発言をしやすい、女性の自己決定権がしやすい世の中になりつつはあります。一方で、コロナのパンデミック、ウクライナ、アメリカにおける人工中絶の違憲問題など、女性の尊厳はどうなってしまうのかと思わせるような世界情勢であります。本日は、その渦中において私たちができることを確認していきたいと思います。

 

●来賓挨拶: 上川陽子氏(国際人口問題議員懇談会(JPFP)会長・衆議院議員)

続いて、国際人口問題議員懇談会(JPFP)会長の上川陽子衆議院議員よりご挨拶をいただきました。妊娠・出産は、個人にとって、性の尊厳、「からだの自己決定権」に係る人生における大切なライフイベントであり、誰一人取り残さない社会を構築するための基礎であると言及されました。

 

上川議員:私たちは『世界人口白書2022』で示されている、世界中の妊娠の約半数が意図しないものであるという事実や、ウクライナ戦禍の中レイプによる妊娠、コロナ禍により増加する児童婚・少女の妊娠など、様々な危機がさらに女性の人生を奪う結果となっていることを直視する必要があります。今こそ、こうした人道危機を改めて認識し、取り組みを強化し、「産む性」である女性の生涯にわたる健康とその権利を保障していくことが重要です。そのためにも、JPFPとUNFPA、さらに市民社会、有識者の方々との連携強化が不可欠です。本イベントにおいて「意図しない妊娠」に光をあて、性の尊厳、「からだの自己決定権」に関するあらゆる叡知を集結し、活発な議論が行われることを心より歓迎するとともに、このイベントが日本国内における啓発を促す一助となり、誰一人取り残さない社会を実現するための力となりますよう、充実した議論と提言を期待しております。

 

●来賓挨拶:赤堀毅氏(外務省地球規模課題審議官)

 

また、外務省の赤堀毅地球規模課題審議官からは、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ。以下、SRHR)の日本でのさらなる広がりを期待しているというメッセージをいただきました。

 

赤堀氏:日本政府はこれまでも、UNFPA(国連人口基金)と緊密に連携し、人間の安全保障の実現の観点からも、国内外におけるSRHR推進を支援してまいりました。今回の白書で報告された事実は、UNFPAが行っている家族計画、包括的性教育、医療従事者研修の重要性を改めて明らかにしました。日本政府は今後も、UNFPAを含む国際社会と緊密に連携しつつ、あらゆる人々の命と健康を守るための取り組みを継続していく方針です。「世界人口デー」のこの日に、SRHRについて考え、「からだの自己決定権」に関する多角的な議論が行われることは大変意義のあることであります。

 

●『世界人口白書2022』解説:佐藤摩利子(国連人口基金駐日事務所長)

SEEING THE UNSEENー『世界人口白書2022』で伝えたいことー

 

国連人口基金駐日事務所長の佐藤摩利子より、『世界人口白書2022』見過ごされてきた危機「意図しない妊娠」』について解説をしました。本白書の英題は「SEEING THE UNSEEN」。「見えないものを見てほしい」というメッセージが込められています。

 

 

佐藤:世界の人口は、この200年で大幅に増加しており、およそ95%が開発途上国で起こっています。貧しい国の、貧しい家族の、貧しい子どもたちが増えることで、貧困の連鎖を生んでしまうことになります。そんな社会にしてはいけません。今年発表された白書には、意図しない妊娠の背景、からだの自己決定権、妊娠のコストについての調査結果がまとめられています。

 

世界の妊娠のうち、およそ半数の1億2100万件が意図しない妊娠という結果が出ており、言い換えれば、世界の女性たちがからだの自己決定権を行使できていないということになります。

さらに、教育と労働の機会の損失、産後うつのリスク、妊産婦と子どもの健康状態の悪化が引き起こす医療システムへのコストなど、計画外の妊娠によって引き起こされるコストにも触れた上で意図しない妊娠が起きる社会的背景に言及しました。

 

佐藤:意図しない妊娠は、世界的には過去30年で減少傾向にあるものの、割合が高くなっている要因として、低い社会経済的発展、ジェンダーの不平等、高い妊婦死亡率があげられます。また、高所得でありリベラルな国の方が、制限的な国よりも中絶が低い傾向にあり、意図しない妊娠が個人の行動やモラルによるものではなく、政策決定や国の発展にも関わる危機であると言えます。

 

また、避妊に関する情報及び避妊具・薬にアクセスできない女性が大勢おり、4人に1人の女性が性行為を拒むことができないという状況にあることからも、男性への性教育やエンパワーメントが必要であるとの見解を示しました。

最後に、ウクライナ危機や新型コロナウイルスによるパンデミックなどの人道危機下においては、性暴力による妊娠、若年妊娠が増えており、危機のなかの危機と位置付けて手厚い支援を行っていくとともに、この見過ごされてきた危機を日本の方々やメディアにも知っていただきたいと述べ、スピーチを終えました。

 

●日本の“意図しない妊娠”の現状:中島かおり氏(NPO法人ピッコラーレ代表)

妊娠によって孤立しない社会を目指して活動を展開しているNPO法人ピッコラーレ(以下、ピッコラーレ)の中島かおり代表より、日本の「意図しない妊娠」について基調講演をしていただきました。

 

 

日本の意図しない妊娠は、その人を取り巻く環境によって選択の幅が狭められしまうことで、自己決定することが難しくなってしまうため、個人が決定する権利を社会全体でどのように保障していくのかが鍵であると言います。

 

中島氏:ピッコラーレ(前身は「にんしん SOS東京」)を立ち上げたきっかけは、日本の虐待死において、生まれたその日に亡くなる赤ちゃんが最も多く、そのほとんどが妊婦検診にも行けず、たった一人で出産していることを知ったからです。妊娠は一人ではできないのに、誰にも言えず命懸けで出産した女性だけが罪に問われてしまうという残酷な現実を突きつけられました。

 

政府が発表している「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第15次報告)」では、加害者となった10代の妊婦さんが「赤ちゃんを助ける気持ちよりも、誰にも知られなくない気持ちの方が強かった」という声が掲載されていました。

 

中島氏:ピッコラーレが「妊娠出産の相談窓口-にんしんSOS」などの支援活動を続ける中で、一人で出産をして赤ちゃんを育てられない人の背景には、複雑な事情があることがわかってきました。臨月になって、どう見ても妊婦だとわかる状況にあっても誰からも声をかけてもらうことがなかったことも問題です。セルフネグレクトあるいは社会からのネグレクトとも言えるのではないでしょうか。このような悲しいお産をなくしたいという思いも、ピッコラーレを立ち上げた理由の一つです。

 

ピッコラーレの相談窓口は、匿名でどこからでも相談可能です。「夜、オープンしていることが大事」という信念のもと24時間受け付けており、年間およそ6000人からのアクセスがあると言います。「生理が遅れた」「妊娠したかもしれない」といった妊娠不安の相談が多く、10〜20代からの若年層からの相談が65%を占めており、その背景には、貧困や居場所がないなど、実にさまざまな事情があることがわかってきました。ピッコラーレが抽出したデータによると、意図しない妊娠により半数以上の女性が不安を抱えており、産みたい人が47%、産めない人が20%、産む決意ができない人が33%と、どの年代においても“産みたいけれど産めないなどと葛藤している人”の割合が一番多い結果になっています。また、中絶の相談はおよそ7%で、その背景には家族の反対、お金の問題、中絶への罪悪感、出産後の養育への不安などが含まれます。

妊娠葛藤は社会システムによって生じている

ピッコラーレが相談を受けるなかで作成した「妊娠葛藤を強化・深刻化する要因」の図を示しながら、とても複雑に絡み合うさまざまな課題の中で妊娠葛藤が生じたり、強化されていくのだと説明します。

 

中島氏:社会的に弱い立場にいる人ほど、妊娠・中絶に必要な手段にアクセスできない、自己決定できない状況にいることがわかります。妊娠葛藤は、個人だけではなく社会システムの不備によって生じた困難と言えます。そうやって社会の中で孤立して選択肢が持てない状況に陥ってしまった妊婦さんに、あらゆる関係機関とともに選択肢を提示するのが私たちの仕事であり、その仕事を昨今は“妊娠ソーシャルワーク”と呼んでいます。

 

 

(キャプション)ある少女の「私って透明人間みたいだよね」という声をきっかけに妊娠葛藤の背景にある社会課題を可視化したいという思いから、ピッコラーレでは2020年に『妊娠葛藤白書』を発行している

 

中島氏:幼い頃から虐待を受けていた10代の女性が居場所をなくし、転々とするなかで妊娠をしたケースがありました。訪れた行政の窓口で「あなたに提供できる制度はない」と言われたことがあります。追い詰められてSOSを出した人たちが自己決定する権利を社会全体で保障しなくてはなりません。女性を孤立させないためにできることは、まずは誰もが簡単に情報にアクセスできること、そして妊娠した時に社会全体で支援できる仕組みを整備することが必要です。また、緊急避妊薬や中絶薬を取り入れるなど医療面でサポートできる体制も整えて行かねばならない状況であり、日本ではまだSRHRを保障する法律はありません。「売春防止法」が変わり、困難を抱えるための女性支援新法ができるということですが、やはりその新法においてもまだSRHRには触れられていません。自分の体のことを自分で決めるために必要な選択肢が、その人の持っている社会資本によって決まってしまうという状況はとても不平等な状況だと思います。そんな状況を変えていくために、リプロダクティブ・ジャスティスという視点も必要だと思いますし、法律によって彼らの権利を保障して、差別を禁止することで社会全体のスティグマをなくしていきたいと思います。

 

●パネルトーク:

ファシリテーター 宋美玄氏(産婦人科医)

パネリスト 石井光太氏(ノンフィクション作家)、坂井恵理氏(漫画家)、高橋幸子氏(産婦人科医)、中島かおり氏(NPO法人ピッコラーレ代表)

 

後半は、日本の“意図しない妊娠”について、ゲストの方々とともにパネルトークを展開しました。

 

からだの自己決定権は誰のもの?「思わぬ妊娠の前後左右」

 

 

宋美玄氏のファシリテーションのもと、SRHR、性教育、国際セクシュアリティ教育プログラム、自己決定権、男性の当事者意識、堕胎罪など、あらゆるキーワードが挙げられました。それぞれの視点で「意図しない妊娠」にアプローチし、4名のゲストならではの新しいアイデアを得ることができました。

 

必要な人に届く性教育を

宋美玄氏(以下、宋氏):これまでのお話についてみなさんに感想をお聞きしたいと思います。石井さん、いかがでしたか?

 

石井光太氏(以下、石井氏):やはり、“自己決定権”がキーワードですね。ただ、自己決定ができる人は社会的に強い人であるという印象を持ちましたし、現在の日本の性教育もその人たちに向けたものになっているのではないでしょうか。私も取材などで、社会問題として存在する“意図しない妊娠”経験者に数多く会ってきました。ですから、ピッコラーレさんの活動にはとても賛同します。一方で、その支援にたどり着けない人たちもまだ大勢いて、その背景には別の社会問題が堆積していることが課題であると再認識しました。そして、性教育が誰に向けて行われているのか?対象が“教育を必要とするすべての人”ではないことは明らかです。そうした現実と教育との間にズレを感じています。

 

坂井恵理氏(以下、坂井氏):“意図しない妊娠”をしてしまったことで、あらゆる過程において女性が社会的に困難になってしまう理由の一つは、男性の当事者意識の欠如が大きいと思いました。妊娠に伴う女性の体の変化、出産育児に対する想像力がないために、簡単に現実から逃げてしまう傾向があるのではないかと思います。また、性教育についても日本の学生指導要領では中学生1年生の時点でも妊娠の経過を教えないという内容になっているようで。性教育を早くからスタートさせることで、性と生殖に関する理解を深められるのではないかと思います。

 

 

宋氏:妊娠において男性の当事者意識というのは大きな課題ですよね。性教育を専門にしておられる高橋さんはいかが思われますか?

 

高橋幸子氏(以下、高橋氏):今日、まさに高校1年生の生徒さんに向けて性教育を行ってきたところです。性教育を学ぶ時期や対象について言及がありましたが、国際的な性教育の指針である「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、幼少期から段階的に学ぶというように設定されています。5〜8歳では「妊娠は計画的に行うことができる」、9〜12歳では「現代的な避妊方法」について学びます。そして12〜15歳の時点では「性的に活発な若者は避妊具にアクセスできるべきである」ということを教えます。さらに、高校生にもなれば、「避妊をしていても妊娠することはあり、その時に自分がどのように行動すべきなのか」を学ぶカリキュラムになっているんですね。石井さんからもあったように、最終ゴールを教える大人たちが、誰に向けて何を発信すべきかなのかを自覚し、日本でもニーズにあった性教育を一体感を持って進めていかねばならないと日々感じています。

宋氏:幼い頃から順序立てて教育をしていくことが大事なポイントですね。日本には欠けている視点だと思います。中島さん、改めて感想をお願いいたします。

 

中島かおり氏(以下、中島氏):私は、“知らなかったことを知ることが生きる力になる”と相談・支援の現場で感じています。私自身も2人目の子どもを出産してから助産師の勉強を始めたのですが、その授業においてSRHRについて知った時はすごい衝撃でした。「すべての人の命に関わる大事な概念が、なぜ専門家になる勉強でしか知ることがないのか」と。今日のような機会を通して、SRHRという言葉をみんなが聞いたことのあるものに育てて、必要としている人が、その情報や医療にアクセスできる体制を構築できればと思います。

 

大人の教育が男性の“当事者意識”を変える

 

宋氏:さて、ここからは男性の“当事者意識”について考えてみたいと思います。意図しない妊娠をはじめとする、性と生殖に関する課題について、どうすれば男性が自分ごととして捉えることができ、SRHRという概念が広まっていくのか考えてみたいと思います。突拍子のないものでも結構ですので、みなさまのアイデアをお聞かせください。

 

 

石井氏:男性目線でお話をすると、おそらくセックスは責任が伴うものであるという認識が男性には薄く、女性とのお付き合いにおける刺激的な遊びの一つ、というような感覚の人が多いのではないかというのが私の見解です。だからこそ、意図しない妊娠をさせてしまうケースも出てくるでしょうし、本能的なものなので性教育だけでカバーするのはなかなか難しいのかもしれません。一方で、妊娠には至らなくても、自分の性に関する言動について「もしかしてあの行為はNGだったのではないか」と危機感を持ったことのある男性も多いと思います。しかし、危機感を持った男性がアクセスできるところが社会には少ないので、男性を対象にした悩みに対して応えてくれる場やインフルエンサーのような存在が求められているのではないかと思います。

宋氏:たしかに、男性が相談できる公的な機関は少ないのかもしれません。もっと多くの人に開かれた「ユースクリニック」のような場があるといいのかもしません。

 

石井氏:男性が加害者化してしまって、罰則だけで縛ろうとすると逃げるしかなくなってしまうと言いますか。ですから、事態が悪化する前の受け皿があるといいですよね。

 

宋氏:坂井さん、いかがでしょうか?

 

坂井氏:男女のジェンダー観に縛られている人がたくさんいるのではないかと思うんです。セックスにおいては男性が女性をぐいぐいリードするのがかっこよくて、「避妊なんてそんな細かいことやってられない」というような価値観を持つ男性が多いのではないでしょうか。そして女性もまた、女性らしさみたいなものにとらわれて控えめに振る舞ってしまうがために、男性に対して正直に避妊を申し出せない、といった風潮があると思うので、男性にジェンダーの知識を持ってもらうことはとても大事なことだと思います。

 

宋氏:男たるものこうあるべき、という価値観によって男性も苦しんでいることがあるのかもしれませんね。そしてセックスがカルチャーとしてみなされている側面があると思います。性行為について正しい知識を得る機会はほぼなく、ポルノが教科書のようになっています。性産業も含めて、性全体を取り巻くカルチャーの変化が必要な気がします。では、高橋さんお願いします。

 

高橋氏:男性が性の悩みを持ったときの相談場所についてお話がありましたが、「日本家族計画協会クリニック」の電話相談(現在はLINE)があります。電話相談の頃は、実は男性からの悩みが多かったようです。その内容は、1位はマスタベーション、2位は包茎、3位は性器の大きさという内訳になっていてコンプレックス面での相談が多かったようですね。やはり、社会全体で男性の意識を変えていくためにも、性教育が重要かと思います。2023年度より、文部科学省と内閣府が連携して「生命(いのち)の安全教育」が全国の学校でスタートします。プライベートゾーンについて、性的同意について、デートDVについて……と、就学前から始まって、小中高と段階的に学んでいくプログラムです。防犯教育という視点にとどまらず、性について学ぶことが人権教育として“あなたの体はあなたのもの。だから自分で守ることができるよ”というメッセージが積み重なっていくことを期待していますし、これは社会全体として学ぶチャンスだと思います。大人たちも学んでおかなければ、子どもたちのSOSをキャッチできないんですよね。

 

宋氏:大人が学ぶチャンスがなかなかないことも課題ですよね。ありがとうございます。中島さん、お願いします。

 

中島氏:男性の相談については、妊娠SOS東京でも実は全体の14〜16%が男性からの相談なんです。多いのが「避妊に失敗したかもしれない」という不安による相談です。やはり男性も体のことを知りたいし、意図しない妊娠を避けたいという思いを持っているのだと実感しています。性教育という視点から言えば、大人の性に関する知識不足により、子どもが学校で得た知識を家に帰って大人に話すと否定されてしまうこともあるようなんですね。だから、大人には企業研修などを開いて定期的な学びの機会をつくるべきだと思います。

 

宋氏:企業研修というのはいいですよね。昨今はいろいろなタイプの企業研修が開催されているようなので、性教育も取り入れてもらえたらいいですね。

 

若者を支える社会制度や選択肢を

宋氏:さて、ここまでいろいろなアイデアをいただきましたが、具体的な制度について話してみたいと思います。バースコントロール、情報や医療へのアクセス、実際に産んだ場合あるいは産まなかった場合の費用について、親子関係など、意図しない妊娠の周りを取り巻くさまざまな環境や課題に対して、今の日本にはどのような制度が必要でしょうか? 

 

中島氏: 2017年にドイツに訪問した際に、日本で若年妊娠が社会課題になっていることを話すと、ドイツの方に「なんで?」ととても不思議がられたんですね。というのも、ドイツでは若くして妊娠してしまうと学業に影響してしまったり、親になるにはまだ未熟であるなどといった観点から、10代の人は無料でピルを入手できて、保険適用で中絶手術を受けることができます。そうやって、若年の妊娠を社会全体で支える仕組みがあるんです。日本ももっと世界の事例を参考にして制度を変えていくべきだと思います。

 

高橋氏:私も2019年にスウェーデンへ性教育の視察にいきました。ユースクリニックを見学してきて、若者が無料で避妊具を入手できるという現場を見てきました。先ほど、赤堀さんからこれから政府としてSRHRを広めていきたいというお話がありましたが、一筋縄では行かないであろうことは私たちも察しております。正面から制度的に若者たちをサポートすることが難しくても、大人の知恵をフル活用して、まわり道でも若者たちに選択肢を与えてあげられる社会をつくっていけたらいいなと思います。

 

 

宋氏:日本でもぜひ、ユースクリニックのようなシステムを公的なものとして運営できるといいですよね。なお、大人がアイデアを絞ってSRHRを広めていこうというお話がありましたが、日本産婦人科学会ではアメリカの最高裁における人工中絶の合憲性を認めない判決に抗議して、SRHRを進めていこうという声明を発表し、医療業界ではますますSRHR推進の機運が高まっています。

 

堕胎罪によって失われる自己決定権

 

坂井氏:私は堕胎罪(刑法212条)を廃止してほしいです。今の日本では、母体保護法があって、中絶をしたからといって処罰されることはありませんが、刑法に「罪」という言葉が記されているだけでもインパクトがありますし、当事者である女性はどうしても罪悪感を感じてしまうと思います。ですので、法的な表現を和らげることを期待します。また、中絶の方法も日本は他国に比べて遅れている部分があると思うので、体に負担のない方法が一般的になってほしいです。

 

宋氏:堕胎罪については母体保護法においては指定医師であれば中絶手術を行なってもいいですが、指定医師でない場合は中絶手術を行うことができないため、実質的には当事者である女性に決定権がない状態なんですよね。指定医師でない人が中絶手術を行うと罰せられてしまうということもあって、中絶を提供する医療側にとっても、中絶をしたい女性にとってもリスクがあるという現状ですので、各方面から変えていきたいと思いますね。また、中絶手術の方法においては、掻爬(そうは)法もほとんどが安全に行われているだけでなく、吸引法を使うところがかなり増えています。中絶薬においても承認へ向けて働きかけているところです。ただ、中絶薬については、気軽に安全に中絶ができる夢の薬ということではなく、母体保護法における指定医師のもとで行うものであって、薬局で手軽に買えるようなものではないということはお伝えしておきたいと思います。

 

立場の壁を超えて課題を共有する

 

石井氏:僕は性産業のど真ん中にいる人たちこそ、性と生殖に関して危機感を持っているのではないかと思っていて。例えば、風俗業界では、コロナ以降、避妊をしない過激なサービスを求められることが増えてきて、女性はもちろん風俗店の店長さんたちが危機感を持っているんですね。AV業界でも、避妊しないAVが暴走的に流行ってしまっている。風俗やAVというと、世間的には良いイメージを持たれないかもしれませんが、業界関係者には働いている女性を大切にしたいという思いがあるんです。けれど、彼らは女性を操るポジションにいるように見えるので世間的には悪いイメージを持たれがちです。そうした分断された状況のなかで物事を考えるのではなくて、性の身近にいる業界の人とともに考えることで新しいアイデアが出たり、できるアクションがあるのかもしれません。課題意識を共有する人たちが、業界の壁を取っ払って共に活動することで、社会的な支援や性教育が届いていない人たちにもアプローチできるのではないでしょうか。そのためにどのような仕組みやプロセスが必要なのか、こういったオープンな場でも積極的に考えてみたいと思います。もしかすると、社会的に地位のある偉い人が訴えるよりも、AV男優や風俗店の店長が話した方が心に響くケースもあるかもしれません。

 

宋氏:たしかに、性産業においてインフルエンサーと呼ばれる人たちとともに情報発信はもっとしかけていくべきだと思いました。

 

大人を教育して一人ひとりの意識を変える

宋氏:ではここで、参加者からいただいた質問にお答えしたいと思います。「意図しない妊娠やそれにともなう課題は、人ごとではなく社会全体の問題であり、当事者になり得ることを認識してもらうためには、どのようなアクションが必要でしょうか?」という質問です。石井さん、お願いします。

 

 

石井氏:僕はやはり大人に対する教育が必須だと思います。子どもは大人の態度をよく観察しているから、子どもの行動への影響が大きいんですよね。DVや虐待など、あらゆる社会課題において大事なことの一つが、相手の立場に立てるのかどうかだと思います。その想像力を養えない環境にいる人の方が学校教育や社会システムから遠いところにいるケースが多く、社会の分断が進んでいきます。だからこそ、大人になってからも定期的に学ぶ機会をもっとつくっていくべきだと思います。性教育という方法もあるだろうし、共感性にアプローチするというやり方もあるでしょうし、いろんな可能性があると思いますが、大人が1年ごとにでも、妊娠やその周辺にある課題について考える機会があれば、大人の日常会話や日々の態度が思いやりのあるものに変わっていくのではないかと思います。

 

坂井氏:私もやはり、一人ひとりが変わっていくことで社会が変わっていくと考えているので、石井さんがおっしゃったようなインフルエンサーの活用というのも大きな効果が望めるのではないかと思います。漫画の描写においても、少しずつ男女の描き方などが変わってきていて、これからますます変化していくと思います。そういった新たなジェンダー観や性に関する情報に触れる機会を増やすことで社会全体を変えることができるのではないかと期待します。

 

国際セクシュアリティ教育ガイダンスの導入は必須

 

高橋氏:私はやっぱり性教育にかけたいと思っています。これまで文科省は「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に則った性教育を取り入れないのかなと思ってきたのですが、このたび厚労省にて「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に則った教材を作らせてもらいました。厚労省で作成したものですので、文科省で直接的に広まっていかないという課題があります。しかし、この度「こども家庭庁」が新設されました。ここでは各省庁の壁を取っ払っていこうという風に伺っておりますので、省庁を超えた教育の広まりを期待しています。国政も一体となって社会全体で子どもたちを守っていきたいと思います。

 

中島氏:私も、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」で、5歳の子が学ぶことを日本の大人が学ぶべきかなと。ガイダンスでは5歳の子が最初に学ぶことは「世界にはいろんな家庭のかたちがある」ということなんです。温かさがあって、子どもが安心して性教育の入り口に立てる内容だと思います。出張講座などで児童館や中高生支援のための居場所を訪問すると、年代における課題は実にさまざまで、大人が思う“日本の家族はこうあるべき”だとか、“この性別や年齢ではこうすべき”という同調圧力のなかでしんどくなってしまう子どもが多いと感じています。だから、家族のことも、セクシュアリティについても、いろんな形があっていいのだと知ることで、個人がエンパワーメントされ、自分の権利を自覚して生きる希望が湧き、自身の生き抜く力を信じられるようになるのではないかと思います。

 

からだの自己決定権を守るための3つの提言

 

宋氏:みなさまありがとうございます。では、みなさまのお話を提言としてまとめさせていただきます。

 

1、SRHR、国家および産婦人科など各業界がともに推進する

具体的には、早い時期からの包括的性教育を推進するとともに、特に男性の性教育に力を入れるべきではないかとの意見がありました。また、いつ妊娠・出産するかを自分で決めるバースコントロールにまつわる問題を解決していくべきです。他国にならって、若い人や貧困の渦中にいる人でも無料で避妊具にアクセスできる。そして国にはぜひ、相談窓口として「ユースクリニック」の設置を進めていただきたいです。

 

2、大人が定期的に性教育を学ぶ機会をつくる

企業研修などを通して大人が学ぶ機会を増やしていくこと。例えば企業では経産省が推進している「健康経営優良法人認定制度」があります。この制度において優良とみなされた企業はホワイト500という認定を取得することができるのですが、その要件の1つに女性の健康についての啓発や相談窓口をつくるという項目があります。このように、優良企業として認知されるためのプロセスの中に性教育を盛り込むことも有効な手段だと思います。そして、インフルエンサーの活用です。業界を超えて、いろんな立場の人に発信をしてもらうことが、これまで性教育にリーチできなかった層にアプローチできるのではないかと思います。

 

3、からだの自己決定権に関する法律の見直し

特に堕胎罪は、からだの自己決定権を侵害するものだと思います。また、中絶の配偶者要件についても見直しが必要です。今回は言及できませんでしたが、女性が自分の体のことを決めるためにパートナーの同意が必要ということは、からだの自己決定権にそぐわないルールだと思います。法的なところからも、からだの自己決定権を守る必要があります。

 

●閉会の挨拶:

阿藤誠氏(国立社会保障・人口問題研究所名誉所長、「世界人口白書」監修者)

 

閉会の挨拶では、「世界人口白書」監修者であり国立社会保障・人口問題研究所名誉所長の阿藤誠氏が、これまで見過ごされてきた日本の女性の自己決定権について言及しました。

 

「意図しない妊娠」は日本社会での見過ごされてきた課

 

阿藤氏:意図しない妊娠を減らすためには、避妊が必要です。『世界人口白書』日本版では割愛されましたが、『世界人口白書』本文の3章から5章において避妊について詳しく論じられています。ここで少し、避妊の普及と密接に関係する政策指標としての“アンメットニーズ”(注1)を手がかりに、からだの自己決定権というミクロの問題と人口開発問題というマクロの問題について考えてみたいと思います。

 

先進地域ではアンメットニーズが9%であるのに対し、開発途上地域全体では12%、特に貧しい後発の開発途上諸国では20%、高い国では30%を超えています。後発の開発途上諸国では、避妊実行率が低く、アンメットニーズが高いため、意図しない妊娠・出産が多くなっています。この問題に対処するには、教育、雇用、価値意識の面で、ジェンダーの平等を実現していくことに加えて、リプロダクティブ・サービスを通じて、近代的効率的な避妊手段が求められます。

 

避妊のアンメットニーズの充足は、何よりも女性のからだの自己決定権の実現に貢献します。我が国は今後、国連人口基金が先頭に立って進めているSRHRプログラムをより積極的に支援していくことが望まれます。日本のアンメットニーズは17%と、途上国平均すら上回っています。また、避妊実行率は50%と、先進国中最低です。避妊手段が男性主導の方法が圧倒的であり、データを見ただけでも、日本の女性のからだの自己決定権は不十分です。意図しない妊娠と避妊を巡る問題は、途上地域に限られる話ではなく、日本社会自体の見過ごされてきた課題であることを再確認した上で、閉会の言葉とさせていただきます。

 

注1:アンメットニーズとは、リプロダクティブ・ヘルスの分野では、家族計画を実行したいと考える女性のニーズに対して、カウンセリングや情報が不十分であったり、避妊具・薬の入手が困難であること

 

今、私たちが生きる社会において、本来当たり前に誰もが持っているはずの「からだの自己決定権」を守るためには、変革しなくてはならないことが山積しています。性教育や社会制度の見直しは必須です。しかし、今回のイベントに登壇した実践者の声を聞くことで、性教育が幼い頃から段階的に行われ、大人が学びの機会を得ることで、日本の未来が明るいものになるのではないかと感じました。性と生殖に関する権利を女性一人ひとりが自覚して大事にし、自己決定を支えてくれる社会になることを願ってやみません。

 

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