木村花さんは、「テラスハウス TOKYO」という見知らぬ男女6人が同居するというフジテレビのリアリティ番組に出演しました。また、この番組はネットフリックスで海外配信もされました。
プロレスラーの花さんは、2019年9月に同番組に参加し、2020年3月に番組内で彼女のレスリングコスチュームを同居メンバーの一人が誤って傷めてしまったことをめぐり”事件”が起きます。花さんが怒りを爆発させた映像が繰り返し放映されたことがきっかけで、SNS上で炎上し、花さんは激しい誹謗中傷のターゲットとなりました。
2020年3月、花さんは自らがリストカットをした写真と、SNS上で彼女が受け取った誹謗中傷の投稿画像を公開しました。
その後間も無く、彼女は自ら命を断ちました。
花さんの母親である木村響子さんは、rememberhana.comというインターネット上の誹謗中傷の被害を受けた人々を支援するためのプラットフォームを立ち上げました。響子さんは、以下のように語っています。
花は世界中から誹謗中傷を受けました。
花が苦しんでリストカットをして、SNSに載せたとき、さらに多くの非難や侮辱、暴力的なコメントが寄せられました。
「自業自得」、「被害者ぶるな」など、こうした言葉は確実に彼女を追い詰めました。
追い詰められた花は、もう、ここにはいません。
ネットリンチや誹謗中傷に晒されたとき、心が壊れるのにそう時間はかかりません。
花は、自分が受けた誹謗中傷を公にできませんでした。
リアリティ番組には守秘義務、非人権的な誓約書がありました。
友達や家族に番組の具体的な話をしてくれたのは、花がいなくなる直前のことでした。
「あのひとたちは、出演者を人間だと思っていない」、「あのひとたちは人間のこころを持っていない」、そう言っていました。
守秘義務があるなかで、たとえば侮辱罪などに訴えたとして、その行動すら誹謗中傷されかねない状況でした。
わたしたちは、どうすれば花を助けることができたのか、自問自答しています、今もずっと。
ひとりの若者は、わたしに謝罪のメールをくれました。
私にアカウント名や名前、住所を伝えてきました。
それは警察が捜査中のアカウントでした。
もう一人は、アメリカのディスカバリー制度から、名前や住所が割り出されました。警察が捜査をして、検察が起訴しました。
侮辱罪として前科がつき、科料9000円を収めました。
このことがニュースになったとき、世間はその科料の安さに驚き、それならば言いたい放題言って科料を払ったほうが良いという声も少なくありませんでした。
大きな抑止力としての侮辱罪の厳罰化、その必要性を痛感しました。
そして現在も、日本中、世界中から署名を集めています。
世界のリーダー達に、次のような行動をとってもらいたいです。
誹謗中傷を誘発するようなメディアに対する法規制
SNSの使い方に関する教育の更なる充実
誹謗中傷行為の厳罰化(時代の進展に合わせた刑事法が必要)
誹謗中傷に関する捜査機関の体制強化
発信者情報開示手続きの簡素化
人権侵害や精神的苦痛に対する損害賠償の高額化
プラットフォームの削除義務等の法的責任の明確化
被害者救済プログラム
加害者の更生プログラム
1日でも早く、インターネットの中に安全で優しい世界を感じることができるように日々、祈っています。
インターネットの存在について、私は大きな恐怖と嫌悪がありました。
けれど、花の名誉を取り戻すためのいろいろな行動には、インターネットがどうしても必要でした。
今は、人々がどのようにインターネットを使用するかが問題であると思うようになりました。
愛を持ってインターネットを使用することで、誰も傷つけることなく、人々と繋がり、前向きな議論ができるはずです。
全ては私たち次第なのです。
ネットの海に流れている様々な情報を疑ってみること。
自分で調べたり考えたりすること。
「みんな」に流されないでください。
そして、画面の向こう側にいる人への愛と尊敬を忘れないでほしいです。
花と一緒に、わたしの心も死にました。
今あるのは、人生のおまけです。
「ママ、幸せに生きてね」という花の最後のメッセージに応えるためには、生きる道しかありません。
私の人生の全てをかけて、花の望んだ優しい世界に少しでも近づけていきたいと思っています。
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国連は、毎年11月25日「女性に対する暴力撤廃の国際デー」から12月10日「人権デー」までを「ジェンダーに基づく暴力(GBV)に反対する16日間」として、世界中でキャンペーンを展開しています。UNFPAのテーマは「#STOPデジタル暴力」、ジェンダーに基づく暴力とインターネットに焦点を当て、デジタル暴力を経験した女性や少女の体験談を紹介しています。
※本文は当該記事を、駐日事務所にて独自に翻訳および編集したものです。