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世界最速で進むアジア太平洋地域の人口高齢化に、私たちは準備ができているかーUNFPAアジア太平洋地域事務所長ビヨン・アンダーソン

国際高齢者の日(2021年10月1日)

国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋地域事務所長

ビヨン・アンダーソン
 

世界最速で進むアジア太平洋地域の人口高齢化に、私たちは準備ができているか

2050年の世界を想像してほしい。アジア太平洋地域では、4人に1人が60歳以上の高齢人口となる。2010年の3倍にも相当する。今から30年も経たないうちに13億人近くが高齢者になるということだが、アジア太平洋の国々は果たして高齢化社会への準備が充分にできており、人々は尊厳を持って歳を重ねることができるだろうか。

話を現在に戻そう。

東南アジアのとある国で人里離れた村に住む72歳のピンさんは、毎日糯米を3キロほど売って生活を賄っている。彼女は夫が亡くなってから10年以上もこの仕事を続けている。息子は2か月前に亡くなり、娘2人は結婚して他の地域へと移り住んだ。彼女は現在、健康保険からいくらかの補助金を受け取っているが、この先さらに歳をとっても健康でいられるかどうか気がかりでならない。

かつてアジア太平洋地域の多くの国々では、ピンさんのような女性たちは家族や地域社会に老後の暮らしを支えてもらうこともできた。しかし、時代は変わってきている。人の移動や都市化により、高齢者を支える伝統的な扶助システムは機能しなくなり、政府は医療費の財政圧迫や労働力の減少に苦慮するようになった。現在、アジア太平洋地域で何らかの年金を受け取っている高齢者世代は全体の3分の1以下だが、高齢人口の増加に伴い、年金支給に必要な財源は増加傾向にあり、政府の負担はさらに増大している。

人口高齢化に対応していくために、政策の転換がこれまで以上に急務となっている。そして政策の転換には、様々な課題を新たな人口動態の可能性として捉える視点への切り替えが必要である。
 

人口高齢化は脅威ではなく、チャンスである 

私たちは今、人口高齢化が一体何を意味するのかを再考しなければならない。人口高齢化は、政府が国の開発に成功した証として祝福すべきことであり、実際、それ以外の何ものでもない。なぜなら、健康、栄養、経済、社会福祉といった分野で持続的な前進を続けた結果、多くの人々が長生きできるようになったからだ。

人々の平均寿命が伸びる一方で、少子化も進んでいる。これには、夫婦にとって子どもを何人も持つ余裕がないワーク・ライフ・バランスなど、様々な要因が関係している。

しかし、少子化と長寿化という社会現象自体が問題という訳ではない。本当に問題なのは、私たちがこの急速な人口動態の変化に立ち向かう準備ができていないということだ。

だからこそ政府は今、行動を起こさなければならない。政策立案者は有識者や市民社会と協力し、人権を中心に据えた高齢化政策や制度を国家の開発計画に組み込まなければならない。アジア太平洋のいくつかの国ではすでに高齢化対策が講じられてきているが、新型コロナウイルスの感染拡大や人道危機など高齢者がより弱い立場に追いやられる状況においては、施策の実施により一層の努力が求められる。
 

ジェンダー平等を軸に据えた​​ライフサイクル・アプローチの導入

アジア太平洋地域では、高齢者人口の半数以上が女性であることを踏まえ、ジェンダー平等と人権に根差したライフサイクル・アプローチを取り入れることが重要である。

高齢化社会では、女性は生涯にわたって存在するジェンダー差別により、さらに不利な立場に置かれることになる。高齢の女性は、一般的に教育水準が低く、家事など所得による対価が得られない労働を担うことが多いため、高齢の男性に比べて他者への経済的な依存が高くなる傾向がある。

人々がどのような人生を歩むかは、それぞれのライフステージへの投資によって決まっており、それは生まれる前からすでに始まっている。女性が子どもを安全に出産できれば、母子ともに健康な状態が長く続く。少女たちが包括的な性教育を含め質の高い教育を受けることができれば、思春期や成人期に起こりうる人生を変えるような出来事について、十分な情報を得た上で判断できるようになる。女性が男性と平等に働く機会が与えられ、からだの自己決定権を持つことができれば、自らの手で未来を切り開くことができる。

女性たちが人生の様々な局面で自己決定すること、そしてそれが許されることが、より健康的で経済的にも安定した老後を送ることにつながる。
 

残された時間はわずか

私たちは今すぐ行動を起こさなければならない。急速な人口動態の変化という巨大な潮流が、アジア太平洋地域のみならず世界全体で社会のあり方を大きく変えている。

国連は2020年から2030年までの10年間を「健康な高齢化の10年」として宣言した。これは来年で20周年の節目を迎える「高齢化に関するマドリッド国際行動計画」(MIPAA)を補完するもので、アジア太平洋地域、さらには世界中の各国政府が集まり、これまでの進捗を振り返るとともに、今後の課題に向けたプランを策定する。

人口高齢化に対応するための単一的かつ包括的な政策は存在しない。そのため、すべての世代の人々のニーズに応える形で、先進的かつ人権とジェンダー平等を実現する政策に投資をしていかなければならない。そうすることで、アジア太平洋地域の国々は、誰ひとり取り残すことなく、すべての人にとってより良い未来を目指し、達成していくことができるのである。
 

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「国際高齢者の日」の本日、UNFPAアジア太平洋地域事務所は、地域全体の人口高齢化を考える上で欠かせない人権に基づくライフサイクル・アプローチの重要性を訴える啓発キャンペーン「すべての世代のために(For Every Age)」を開始。このキャンペーンは、国際人口開発会議(ICPD)の行動計画を推進するもので、アジア太平洋地域の国々が、人々のライフサイクルを通じた投資を行っていくことにより、高齢の女性や男性の生活を向上させる政策や社会システムを積極的に取り入れるように促すことを目的としています。

*この記事は朝日新聞社「論座」に日本語および英語で掲載されたものです。