子どもを持つことを望む多くの人々が、自分の望む数の子どもを持つことができないでいる。しかし、それは親になることを拒んでいるからではなく、経済的・社会的な障壁が原因ですーー。これは、国連人口基金(UNFPA)が6月10日に発表した「2025年版世界人口白書 出産をめぐる真の課題」で示した調査結果です。
今年の白書では、14カ国の約14,000人を対象にした意識調査から得られたデータを用い、さまざまな分析と考察を試みています。例えば、生殖年齢の成人の5人に1人が、「自分は望む数の子どもを持つことができていない、と考えている」ことを明らかにしました。その主な要因は、高額な出産費用、雇用不安、住宅事情、世界情勢への懸念、適切なパートナーの不在などでした。
白書では、経済的な不安定さとジェンダー格差が複合的に融合し、出産をめぐる課題の多くに関与していることを示しています。(14カ国:韓国、イタリア、ドイツ、ハンガリー、タイ、スウェーデン、ブラジル、米国、メキシコ、インド、インドネシア、モロッコ、南アフリカ、ナイジェリア)
ケニア・ナイロビで記者会見を行ったUNFPA事務局長のナタリア・カネムは、「非常に多くの人々が、自分が望むような家庭を築くことができていません。それは『選択肢が欠如している』からです。それこそが出生率低下を含む出産をめぐる本当の課題なのです。この課題への対応は、人々が必要としているもの、すなわち有給の育児休暇、手の届く価格の不妊治療、協力的なパートナーの存在といった『選択肢の欠如』を埋めることなのです」と語りました。
白書で示されたデータには、「子どもを持つこと」をめぐる厳しい状況が映し出されています:
●半数以上の人が、経済的な問題が、望む数の子どもを持つことの妨げになっていると答えた。
●5人に1人が、自分が望んでいないのにもかかわらず、子どもを持つように迫られたことがあると答えた。
●成人の3人に1人が、意図しない妊娠を経験したと答えた。
●11%が、育児負担の不平等によって子どもを持つことが難しくなると答えた。
白書はまた、出産祝金や出生率目標のような、出生率低下に対し単純化された対策、あるいは強制力を伴う対応は、多くの場合効果が乏しく、人権を侵害する恐れがあると警鐘を鳴らしています。
そして、こうした対策の代わりにUNFPAは、手頃な価格の住宅提供、適正な労働環境、育児休暇、リプロダクティブ・ヘルスサービスと信頼できる情報へのアクセスに対する十分な投資などを通じて、人々が自由に、誰と、いつ、何人の子どもを持つかを決定できるようにすることを、各国政府に強く求めています。また、LGBTQI+や独身の人々など多様な形態の家族の存在を認め、親になる権利を拡大す
ることも必要だとしています。
UNFPAは、家族に関する選択肢を妨げている様々な形式のジェンダーの不平等に対して取り組むよう求めています。具体的に改善が求められるのは、以下のような内容です。
●女性が出産などにより職場で退職を迫られたり、キャリアの向上をはばまれたりする慣習
●男性のための有給の育児休暇の欠如と、育児に従事する父親に対するスティグマ
●保育料の負担が大きいこと
●避妊、中絶、不妊治療を含むリプロダクティブ・ライツに制限があること
●若い世代が持つジェンダー観の相違から、婚姻数が減っていること
人々が、望む家族の形成を支援するためには、それぞれの国の状況に応じた経済的、社会的、政治的な対策の組み合わせが必要となります。政策立案者たちが人口動態の変化をどのように乗り越えていくかを検討する中で、UNFPAは、彼らが直面する課題を理解し、すべての人の権利と選択肢を保障するための解決策を見出すための支援をしていきます。
※全文はこちらからダウンロードできます(英語)。
UNFPAと「世界人口白書」について
国連における性と生殖に関する健康を推進する機関として、国連人口基金(UNFPA)は、人々が避妊や命を救うリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)のサービスや情報を得られ、女性と少女が自らの身体と人生について十分な情報を得た上で決断できるよう支援しています。また、人口動態の変化に伴う機会を的確に把握し活用するために、各国が人口データを活用できるよう支援しています。
世界人口白書は、UNFPAが毎年発行する主要刊行物です。1978年以来毎年発行されているこの白書は、性と生殖に関する健康と権利の分野における新たな問題に光を当て、それらを国際的な議論の主流に据えるとともに、国際開発にもたらす課題と機会を探求します。