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パレスチナ・ガザ地区ー 「娘の健康状態が心配でした。国立病院の医師、助産師、看護師は有り難いことに対応がよく、熟練しており、とても親身になってくれました」と、サマ・リジークさんは4年前に娘を出産したときのことを振り返りながら話してくれました。

母子の命を脅かすような合併症を併発したリジークさんの出産は、「ニアミス」と言われる危険な事例でした。このような合併症や妊産婦が死亡する例は、妊産婦の健康と妊産婦死亡率が主要課題であるパレスチナではあまりにも多く、状況はなかなか改善されません。国連人口基金(UNFPA)の調査によると、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の2020年の妊産婦死亡は、2019年と比較して43%増加しました。

UNFPAは日本政府とともに、パレスチナの妊産婦の健康を改善し、支援が必要な女性たちに不可欠な支援を提供するために活動しています。その活動において、産科のニアミス事例をよりよく理解し、効果的に予防・対応できるような対応策を策定することは重要なステップの一つとなります。この目的のため、日本政府からの資金援助により、妊産婦に関わるニアミス事例の電子記録システムが開発されました。

現在、ガザ地区の保健省でUNFPAのプロジェクト・コーディネーターを務めるリジークさんは、「データ分析やリスク要因の発見が容易になったことから、必要性と根拠に基づいて、妊産婦死亡率を減少させるための介入ができるようになりました」と説明します。リジークさんは、自身の恐ろしい経験を通じて、このような取り組みが女性の健康状態の改善にポジティブな影響を与えると実感しています。

日本政府が支援するプロジェクトでは、命にかかわる産科症例の記録に加え、妊娠に関連する静脈血栓塞栓症(静脈、特に深部静脈血栓ができること)のプロトコル(規定・手順)を作成し、約100人の医療従事者にトレーニングを提供しました。また日本政府からの資金援助によって、UNFPAはバクリバルーン150個を調達し、ガザ地区全域の病院に配付しました。パレスチナの産婦人科医であるカレド・ジンモ医師は、「バクリバルーンは単純な器具でありながら、ニアミスの分娩後出血を制御できる救命方法です」と説明します。「バクリバルーンは、これまでガザでは入手することが困難でしたが、日本政府の支援のお陰で、2021年以降は出血に関連する妊産婦の死亡が飛躍的に減少しています」と続けました。

これらのプロジェクトは、非常に大きな変化をもたらしたとリジークさんは言います。「ガザでは、誰もが状況に配慮した温かみのある取り組みであると実感しています。これらは国から国への誠実な支援に基づいています。このようなインパクトのあるプロジェクトが今後も続き、拡大していくことを祈っています」と述べました。

2021年、日本政府はUNFPAへの資金拠出国トップ10に入るドナーであり、長年に渡って、中東地域の母子保健や緊急産科ケアを支援しています。
 

本文は当該記事を、駐日事務所にて翻訳・編集したものです。