ホアビン市までの山々や竹林をぬうように曲がりくねっているその道は、一見、何の変哲もない田舎道のように見える。ごくまれに、疾走する車と走行を妨げる野牛が歩いている他は、オートバイ、自転車、歩行者たちが、くねくねと蛇行しながら通行している。
しかし、ベトナム北西部のホアビン省ダバック郡の人々にとって、この田舎道はまさに命をつなぐ道である。この道路のおかげで、ホアビン市にあるホアビン省病院に30分で行くことができるようになったのだ。国際協力銀行(JBIC)からの円借款供与により、この道路が建設される前は、途中のフェリー移動も含め、2~3時間もの道のりだったのだ。緊急時には、ほんの少しの距離や時間の差が生死を分ける。実際、ベトナムでは遠隔地に住む妊産婦が妊娠や出産に関連した合併症を併発した際に、高度な医療ケアを享受できないために命を落とす例が依然として多い。
「この道のおかげで、人々は必要なサービスが受けられるのです。医療ケアを受けることができ、女性や赤ちゃんは生き延びるチャンスを得ることができます」とオリンピックで二度メダリストになり、国連人口基金(UNFPA)の親善大使である有森裕子氏は言う。
ベトナム視察中の有森親善大使は、ホアビン省病院で「地方からこの病院に運ばれて来た母親たちから生まれた未熟児も、複数の開発機関の支援を受けたこの病院で、高度な医療ケアを受けることができます。そんな子どもたちを見ていると、大きな希望がわいてきます」と語った。
このホアビン省病院は、国際協力機構(JICA)の機材供与により、先ごろ全面的に医療設備の整備が行われたところである。一方、国連人口基金は、ホアビン省の医療システムのあらゆるレベルの医療従事者に対するトレーニングを実施する等、技術向上を支援している。また、未熟児が生後数日間を生き延びるために不可欠となる保育器を含め、必要な医療機器も提供している。
「開発援助を通して人々の生活や環境を改善していくことは、目標到達のために忍耐やコミットメントが不可欠だという点で、マラソンのトレーニングに似ています。幾つかの機関が協力的な環境の中で互いに連携しながら活動を行うことは、開発を持続可能なものとするためには非常に重要です」と有森親善大使は言う。
有森氏は、2002年以来国連人口基金の親善大使として、若者、ジェンダー、そしてリプロダクティブ・ヘルスなどをテーマに、日本における啓発活動に積極的に取り組んでいる。