国連人口基金は、米国議会が承認した国連人口基金への拠出3,400万ドルを差し控えるという米国政府の決定に対し、遺憾の意を表明した。3,400万ドルという金額は、HIV/エイズ蔓延の緩和、妊産婦死亡の予防、家族計画の提供し、人工妊娠中絶件数の削減に至急必要とされるものである。
米国政府は、今年で三年目になる拠出差し控えの理由として、国連人口基金が中国で強制人工妊娠中絶を支援しているということをあげるが、これには根拠がない。「米国からの拠出金があれば、何千人もの命を救うことができたでしょう」と、トラヤ・オベイド国連人口基金事務局長は話す。
世界中で10億人以上の若者が生殖年齢に入り、リプロダクティブ・ヘルスに関する保健医療サービスへの需要が増加するなか、支援にあてられるその1ドル1 ドルの重みがますます増してきている。国連人口基金の推定によると、もし3,400万ドルが拠出されていれば、多くの国で、200万件の望まない妊娠、 80万件の人工妊娠中絶、4,700件の妊産婦死亡、さらに77,000件以上の乳幼児死亡を防ぐことができたとされている。また、妊産婦の健康向上およびHIV/エイズ予防対策のさらなる拡充にも用いられる可能性があったと指摘する。
「歴史的に、米国はリプロダクティブ・ヘルスや家族計画の促進において世界のリーダーでした。私たちは、米国が再びその役割を果たすことを望みます」とオベイド事務局長は述べ、世界規模での保健衛生向上及び貧困緩和が緊急課題であること、それには力強い連携と国際的な協力が求められることを強調した。
国連人口基金は約140ヶ国で活動しており、家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルスに関連する保健医療サービスへのアクセス向上、妊娠・出産時の母体保護の促進、望まない妊娠、性感染症およびHIV/エイズ予防など若い世代も視野に入れた活動を行っている。
米国政府の拠出差し控えは中国における国連人口基金の活動に対する誤った見解や疑惑によるものだが、オベイド事務局長は「これまでも、今も、これからも、そしていかなる場所や形態においても、国連人口基金は強制的な人工妊娠中絶に関する活動支援も容認もしておりません」と述べている。
2002年に中国へ派遣された米国国務省の視察団は、国連人口基金が人工妊娠中絶や強制不妊手術プログラムを支援もしくは実施に関与しているという証拠はなかったとしている。視察団は、むしろ国連人口基金はそのような活動に対して強い反対を示していると報告し、議会によって承認された国連人口基金への拠出がなされるべきだと提言している。またこれとは別に3つの独立した視察団(国連、英国議会、様々な宗教の指導者からなる専門委員会)の報告でも、同様の結論に達している。
米国は、予算上の理由以外で国連人口基金に対して拠出を差し控えている唯一の国である。