1994年の国際人口開発会議(ICPD/カイロ会議)以来、セクシュアル・アンド・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康)に関して、著しい進歩がありました。しかし、多くの貧困層に属する脆弱な人々は、未だに救急産科救命処置を含む、質の良い性と生殖に関するサービスを利用できていません。フィスチュラ(産科ろう孔)に苦しむ女性と少女は、最も社会から取り残されているグループであり、フィスチュラの問題が解決できない限り、深刻な不平等と人権や尊厳が否定されることになります。
今年の『フィスチュラ(産科ろう孔)撲滅の日』のテーマは「フィスチュラを撲滅し、女性の尊厳を回復しよう」は、時宜にかなっていると同時に極めて重要でもあります。ミレニアム開発目標(MDGs)の達成年限に近づき、世界が新しい開発アジェンダを策定する今は、私たちは、目に見えず、権力をはく奪され、声の届かない女性と少女を含む、多くの人々の権利を、人間中心で、公平で、人権に基づいたアジェンダの中心に据えるまたとない機会と言えます。それが実現された時初めて、私たちは、救えるはずの母親と新生児の命を救うという目標を現実のものとし、理想の世界を本当の意味で実現することができるのです。
2003年に国連人口基金(UNFPA)がパートナーとともに立ち上げた「フィスチュラ撲滅キャンペーン」は、フィスチュラの撲滅と、予防、治療、社会復帰の三本の柱からなる戦略によるフィスチュラ生存者の支援に向けた進歩を加速させました。国連人口基金による、フィスチュラ治療手術を必要とする女性と少女への支援は5万7000件以上におよび、また、キャンペーンのパートナーにより、更に多くの人々が治療を受けることが可能になりました。
リハビリを受ける女性の数もますます増え続けています。バングラデシュ南部出身のナシマ・ニザムディンさんは、出産時にフィスチュラを発症したことで、当時9カ月の息子ナイェムとともに夫に捨てられました。手術の成功後、ニザムディンさんは精神的な回復を目指し、息子と自分の生計を立てるための技能を習得し、尊厳を持って生きるために、ダッカにある国連人口基金が支援する「フィスチュラ患者訓練リハビリセンター」にやってきました。
しかし、これでもまだ十分な対応とは言えません。推定によれば、少なくとも200万人のフィスチュラ患者が存在し、更に毎年5万人から10万人の女性が新たに発症しています。幸いにも、政治的意思とリーダーシップ、財政的援助と根拠に基づき、コスト効率のよく、質の高い介入、強制結婚の撲滅と少女への教育の保障、そして自発的な家族計画などを必要に応じて組み合わせて実施することにより、この何百万人もの女性と少女の不必要な苦しみは終わらせることができます。また、同じ苦しみをこれ以上多くの人々が経験しないように出来るのです。
私たちが望むのはフィスチュラが存在しない世界であると、国際社会として一致団結しましょう。女性と少女の尊厳を奪い、最も基本的な人間の資質である”希望”を損なう、健康と人権を侵害するフィスチュラに今こそ終止符を打ちましょう。実際、多くの地域では、フィスチュラはすでに根絶されていますが、世界地図上から完全に消し去るべく協力しましょう。今こそ、このフィスチュラ撲滅に関する活動を本当に終わらせる時が来たのです。