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2005年、アジア・太平洋地域の新規HIV感染者が93万人であったとの推定を受けて、国連機関は、急速に拡がっているエイズウィルスの蔓延を阻止し、死亡を減少させるため、HIV感染の予防・治療・ケアを母子保健医療サービスと緊急に一本化させるよう要請した。

この医療サービスの統合強化の要請は、アジア・太平洋地域22カ国から医療従事者や政府関係者、HIV感染者、市民団体らが参加した、第1回アジア・太平洋共同フォーラムの冒頭で出されたものである。

同地域には世界の60%の人口が住んでおり、その内の多くの国で15歳から25歳の歳の若者が占める割合が高く、HIV感染予防・治療・ケアへの取り組みを拡大し、リプロダクティブ・ヘルスサービスの供給体制を緊急に改善する必要がある。多くの国で、妊婦と子供への医療サービスが不十分なため、妊産婦死亡率乳児死亡率、特に出生後1カ月以内の乳児の死亡が特に高いと報告されている。

各国政府は、ミレニアム開発目標の一環として、妊産婦死亡率を減少させ、乳幼児死亡率に対処し、さらなるHIV/エイズ蔓延を防止することに合意している。また、2006年10月に開催された国連総会では、2015年までにリプロダクティブ・ヘルスを完全普及させるという新たな指標が採択された。

しかし多くの国々では公衆衛生のための予算が依然として低く、特に農村部において医療サービスの供給がまだまだ不十分であり、ジェンダーの不平等や差別が根強く、HIV/エイズ予防・治療・ケアや母子保健を整備するための障害となっている。

世界保健機関(WHO)は、HIVの母子感染予防、HIV/エイズ治療を受ける機会を提供するための取り組みは、多くの国々において進んでいると指摘した。しかし、これらの取り組みには、基礎医療制度を充実させ、医療を必要としている人々への福祉と照会サービスが不可欠である。

同地域の国々を比較しても、また国内においても、HIV感染の経緯は大きく異なるが、HIV感染リスクの高い行動をとる者の間で急速に広まっており、そういった人々は貧しく、社会から取り残されている場合が多い。その中で、女性はますます弱い立場に追い込まれている。2001年から2004年までの間で、 HIV陽性の女性は同地域において16%増え200万人を超えたと推定される。これは世界的な平均(約8%)よりも非常に速いペースである。多くの場合、搾取的で強制的、暴力的なセックスを通じて若い女性が感染している。

国連人口基金HIV/エイズ地方担当顧問のChaiyos Kunanusont医師は、「HIV感染予防とリプロダクティブ・ヘルスケアを結びつけることにより、双方のケアが充実し、どちらも利用しやすくなるということです。自分がHIV陽性か陰性かを知らない女性は何百万人もいますが、彼女たちはまた、有効な避妊方法を知らなかったり、必要な避妊薬具を入手することができません。サービスを一本化することで、彼女たちが自分の体を守り、HIV母子感染の確率を減少することができます」と述べた。

子供と若者の新規感染者も増加している。2005年には、アジアで41万1千人の子どもがHIVに感染しており、2005年1年間だけで8万2千人が新たに感染しているが、その内約90%が母子感染を起因としている。

リチャード・ブライドル(Richard Bridle)ユニセフ(UNICEF)アジア太平洋事務所副所長は、「アジア・太平洋地域の多くの国々は既に母子感染予防のガイドラインを持っており、医療従事者の訓練や治療の導入にあたっています。感染を予防し栄養状態を改善し、母親と子供たちに対する包括的な政策を実施するために、これらの取り組みをどのようにリンクさせるべきかという課題が残っています。」と述べた。

世界保健機関、ユニセフ、国連人口基金、国連エイズ合同計画(UNAIDS)の共催で行なわれた会議において、代表団は母子保健と家族計画、セクシュアル・ヘルスを、HIV性感染症のテストとカウンセリングとさらに強く結びつける枠組みについて合意する予定である。また、母親や子供への一次感染予防のための、4本の柱から構成される戦略を推進している。

まず第1の柱は、もうじき親になるカップルをHIV感染から守ることに焦点を当てている。女性は妊娠・授乳期に特に感染しやすい。2つ目は、子供を持つことを望まないHIV陽性の女性とカップルへの支援を目的としている。3つ目は、妊娠しているHIV陽性の女性の子供への感染を防止するよう、診療を確実にすることを目指している。4つ目は、HIV陽性の母親とその家族が、確実にケアや支援、治療が受けられることを目的としている。

上記の会議は、それぞれの国の経験や教訓を共有する場となるだろう。その経験や教訓の多くは、HIV/エイズ蔓延予防のサービスやイニシアチブが、若者のリプロダクティブ・ヘルスの向上や妊産婦・新生児死亡の削減につながると示唆している。