ジェンダー不平等への取り組みを含まないHIV/エイズ対策は成功する見込みがない―本日7月14日、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、国連婦人開発基金(UNIFEM)と国連人口基金(UNFPA)はこのような報告書を発表した。この報告書によると、世界のHIV感染者のおよそ半数が女性であり、エイズが女性や少女に与える壊滅的な影響はその多くが目に見えないもので、差別、貧困、そしてジェンダーに基づく暴力が感染拡大の一役を担っているとされている。
"Women and HIV/AIDS: Confronting the Crisis"と題されたこの報告書では、成人のHIV感染者のうち48%が女性で、1985年の35%から上昇していることが明らかになっている。現在、世界では 3780万人のHIV感染者がいて、そのうちの1700万人が女性ということになる。サハラ以南アフリカではさらに深刻な状況で、エイズを発症させる HIVウィルス感染者の57%が女性である。アフリカにいる15歳から24歳の若い女性のHIV感染率は、同年代における男性の感染率の約3倍にも上る。
報告書の中では、HIV/エイズ対策での地球的規模の進歩は特に女性に焦点を当てたエイズ対策が必要不可欠であることのほか、女性は男性より感染予防知識が少なく、彼女たちがたとえある程度の知識を有していたとしても、差別や暴力によって意味のないものにさせられてしまっているという現実にも触れられている。
キャスリーン・クラベーロUNAIDS事務局次長は、「具体的な対策によって女性が直面する現実に対処しHIV感染に対する女性のリスクを減らしていく以外、進むべき道はないのです」と述べ、女性への暴力を減らし、HIV予防と治療体制の充実と女性の財産権の保障が重要であるとうったえた。
この報告書は、国際的な圧力団体である"Global Coalition on Women and AIDS"が「効果的なエイズ対策に直結する」と指摘する分野に焦点を当てている。この団体は包括的なHIV/エイズ対策イニシアティブとして2004年に発足し、特にHIV/エイズに感染している女性や少女またはその家族の生活の支援が具体化されるよう活動を行っている。「効果的なエイズ対策に直結する」とされる分野には、HIV予防・治療・ケア、教育、ジェンダーに基づく暴力への対策、そして女性の権利保障が含まれる。女性の権利の中には、自分自身を守るために必要な教育を受ける権利、情報へのアクセス、そして女性主体の避妊方法を選べる権利のほか、土地・財産の所有・相続権、経済的に独立する権利なども含まれる。また、女性にとって有害である伝統的慣習や暴力から自由である権利、自己の身体や人生を決定する権利なども女性の権利に含まれるとされる。
トラヤ・オベイド国連人口基金事務局長は、「禁欲(Abstinence)、相手に忠実でいる(Be Faithful)、コンドームの使用(Use Condoms)といういわゆる『ABCアプローチ』は女性や思春期の少女にとってHIV予防の十分な対策にはなりえません。なぜなら、『禁欲』は強制的に性行為をさせられる女性にはまったく意味がなく、女性が『忠実』であったとしても、肝心の夫が複数の相手と性交渉をもっている場合や結婚前にHIVに感染している場合は十分な予防にはなりません。また、『コンドーム』の使用には男性の協力が必要であるからです」と述べ、さらに、女性の社会的、経済的エンパワーメントの重要性と女性のセクシャル・リプロダクティブ・ヘルスに対する権利保障を政府が財源的に推し進めていくことの必要性をうったえた。
こうした困難な状況のなかでも、多くの女性がHIV/エイズ対策において中心的な役割を担ってきている。報告書では、こうしたHIVの蔓延に対し革新的な活動をしている女性の話がいくつか紹介されている。こうした女性たちの活動は、国のエイズ政策や戦略を変えていく戦いであるとともに、女性のニーズと状況に対処するよう財源を振り分けるよう求めていくことである。
ノエリーン・ヘイザーUNIFEM事務局長は、「エイズという過酷な病を経済的、社会的な危機へと変化させたものはジェンダーの不平等であります。この危機を乗り越えるには、ジェンダーの平等や女性のエンパワーメントを促進する対策・政策にさらに財源を投入する必要があります」と述べ、こうした対策・政策が実際にHIV/エイズの影響をうけている女性の知識や経験に基づいていなければならないとつけくわえた。さらに、「女性が単なる被害者だけではなく、変化を起こす行動者でもあります」と述べ、HIVに苦しむ女性たちの声にしっかり耳を傾けることや女性たちのリーダーシップ育成などに努力していく重要性をうったえた。HIV/エイズ、ジェンダー不平等、貧困という三重苦を終わらせるには、女性が経済的に自由で、男性と対等に土地・財産の所有権や雇用の保障が確保され、暴力、差別、そして辱められることがない人生を送ることのできる権利が保障されなくてはならないのである。
編集者注:
この報告書に出てくる女性の話には以下のようなものがある。
コウサリヤ・ペリアスワミ(Kousalya Periaswamy)さん(インド):
19歳で未亡人になり、夫から感染し自らもHIVポジティブ。夫から自分はHIVに感染していると告げられたのは結婚して数週間後のことだった。周りの非難にもめげず、彼女のようなHIVポジティブの女性が世間に名乗り出ることを支援し、"Positive Women's Network of South India"という団体の設立に寄与した。現在、この団体には数千人が加盟し、カウンセリングや社会福祉活動を通じて多くの女性と少女に希望を与えている。(ペリアスワミさんは現在バンコクで開かれている国際エイズ会議に出席しており、取材も可能。)
ハディジャ・バー(Khadija Bah)さん(シエラレオネ):
19歳の時に武装勢力に両親と夫を殺害された後、誘拐され武装勢力の性的奴隷とされた。脱走に成功し首都フリータウンまで逃れたものの、ほかの多くの女性と同様、食べていくために売春婦となった。現在、ハディジャさんは、通称「ジュリアナおばさん」と呼ばれるジュリアナ・コンテ(Juniana Konteh)さんが始めた"Women in Crisis"というプロジェクトが運営するセンターに身を寄せている。自らの経験を話し心の傷を癒す場所を得た彼女は、HIVから身を守る方法や性産業から足を洗えるよう職業訓練などを学んでいる。