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『世界人口白書2013 母親になる少女―思春期の妊娠問題に取り組む』の発表に際して謹んで申し上げます。

『世界人口白書2013』のねらいは、思春期の妊娠について、新しい考えと取り組みを引き起こすことです。そして少女たち自身を対象にした介入から、少女の人的資本を確立、権利を保護し、意思決定する力を与える、広範囲にわたったアプローチへの転換を促すことにあります。開発途上国では、毎日、18歳未満の2万人の少女が出産し、年間合計では730万人にのぼります。出産だけでなく、妊娠すべてを含めると、この人数はさらに多くなります。

妊娠は、少女に大きなリスクをもたらします。
健康を阻害します。
精神的な負担を強います。
学校にも通えなくなります。

そして、教育を受けていない少女は、仕事を見つけ、自分の将来を設計するスキルを身につけることができず、自国の発展に貢献することもできません。思春期の妊娠の経済への影響は莫大です。中国のような経済大国では、思春期の妊娠で失われる国の利益は年GDPの1%に当たる1240億ドル相当だと評価されています。ウガンダのように経済規模が小さな国でも、逸失利益は、GDPの30%にあたる、150億ドル相当になります。

妊娠の影響は、すべての少女に多大な影響を与えますが、とりわけ14歳以下の少女にもたらす影響は大きいのです。毎年、200万人の14歳以下の少女が出産しています。極めて若い少女たちは、搾取、児童婚、性行為の強制や性暴力の対象に特になりやすいのです。妊娠は、少女たちを身体的危険にさらし、成長も阻害します。
若くして妊娠した少女は、より年長で妊娠した少女や、成人で妊娠した女性に比べて、死や身体障害に陥る危険が2倍もあります。14歳以下で妊娠した少女は、人権が侵害され、永遠に人生を狂わされてしまいます。

妊娠は多くの点で、少女の人生をむしばみます。それだけでなく、妊娠は、少女の家族、コミュニティ、母国、そして経済にも影響を与えます。世界の多くの場所で、妊娠したことを少女のせいにする傾向があります。それらの場所では、少女の行動が問題視されると、少女の振る舞いを変えることが、唯一の解決策だと、多くの人が誤って考えるかもしれません。しかし現実には、妊娠は、少女の振る舞いにはあまり関係なく、彼女の家族やコミュニティ、そして政府のあり方に、より深く関係しているのです。
国連人口基金の世界人口白書は、思春期の妊娠は、無謀な行動や慎重な選択などの結果として起こるのではなく、むしろ、少女に選択肢がないことや、少女の力ではどうにもできない状況の結果であると明らかにしています。

世界中で、思春期の妊娠は、貧しく、教育を受けられない田舎で、より頻繁に起こっています。
そして、思春期の妊娠は、

・社会から無視されている少女たち
・情報やサービスにアクセスできない少女たち
・自分の人生の選択についてほとんど発言権がない少女たち
・自分以外の他者に、自分の現在や未来の生き方が決められている少女たち

の間でより多く起こっています。

思春期の妊娠は不平等、貧困、そして女の子は男の子より劣るものだ、という考えの表れです。もしくは、少女は、教育、健康、暴力や差別の恐怖から自由に生きるという基本的人権を与えられないものだという考えの表れでもあります。思春期の妊娠は、少女の無力さを意味します。少女の無力さを示すもっともひどい形態の一つが、児童婚です。国連人口基金の「世界人口白書」によると、18歳以下で妊娠した少女は10件中9件、結婚しています。1日に3万9千人の少女が結婚し、基本的人権を侵害されています。9人に1人は15歳未満で結婚しています。結婚するかどうか、誰と、いつ結婚するか決定権のない少女たちはまた、子どもを作るかどうか、いつ出産を始めるかについても決定権がない可能性が高いのです。家族や地域、政府が児童婚を容認すると、発展途上国において、「母親になる少女」は日常的な出来事として起こり続け、少女の基本的人権は侵害され続けます。

思春期の妊娠の問題に立ち向かい、少女が安全に、そして健康に大人になることを確かなものにしていくには、どうしたらよいのでしょうか。国連人口基金の「世界人口白書」は、少女に力を与え、基本的人権を維持し、少年と対等の地位に置くように呼びかけています。

まず、最も大事なことは教育です。
少女が学校に通い、やめずに通い続けられるようにすることが極めて重要です。白書は、学校に通い続ける期間が長い少女ほど、妊娠する確率が低いと報告しています。教育を受けることで、少女は将来の仕事や暮らしに備えることができ、自尊心と地位が向上されるとともに、人生に影響を及ぼす決断について、自分で決めることができるようになります。教育はまた、児童婚の可能性を減らし、出産を遅らせます。児童婚を禁止する法律を制定し、有効な法律とすることも極めて重要です。包括的な性教育を受ける若者の権利を護り、望まない妊娠を防ぐための情報やサービスに対する障壁を取り払わなければなりません。

少年が社会生活の中で、少女を、自分たちと同じ権利と機会を持つ対等な人間として見るように仕向けていかなければなりません。この問題に少年や男性が関わって解決していけるようにしていかなければなりません。

既に妊娠している少女は、汚名ではなく、支援が必要です。妊娠中も学校に通い、出産後に教育を再開できるような支援が必要です。

私たちの過去の経験や知識は主に15歳以上の少女たちに関するものです。14歳以下の少女たちの課題や、脆弱性についてはまだ知らないことが多すぎます。知識の不足を補い、幼い少女たちを搾取、従属、虐待、そして妊娠から護る新しい方策を考えていかなければなりません。

10歳から14歳までの少女がもっとも無力で、支援を必要としています。これらの少女たちには、主体性を築き、権利を守ることができるよう、 幼いうちに特別な手段が取られるべきです。しかし、年齢に関係なく、児童婚、字が読めないこと、貧困など、思春期の妊娠を引き起こす因子に、私たちは立ち向かっていかなければなりません。少女が力を備え、教育を受け、健康で、児童婚から護られ、尊厳と安全の中で暮らし、自分の将来について自分で決断でき、権利を行使できるようなジェンダーに公平な社会を作っていくことが非常に重要です。

私の国、ナイジェリアでは、「一本の足では走れない」ということわざがあります。
これは全ての国への教訓です:少女に力を与え、権利を護り、妊娠を防ぐことで初めて、少女たちは自分が持つ可能性に気付き、開発の対等なパートナーとなるのです。そして、少女と少年が対等な立場になって初めて、全ての国は両足で走ることができるようになるのです。

国連人口基金は、すべての少女が安全で、健康に大人に成長できるよう、ジェンダー不平等や差別、暴力、児童婚、そして妊娠によって成長を妨げられない権利を護るため、活動していきます。

子ども時代は、母親になることによって、冒されては決してならないのです。

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