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「国際開発ジャーナル」4月号 記事掲載

2019年04月11日

            

4月1日に発行された『月刊 国際開発ジャーナル 4月号No.748「世界を読む」』に所長の佐藤が執筆した「ナイロビ・サミットで逆風を追い風に」が掲載されました。34ページの21行目から29行目にかけての部分で誤解を招く記述がありましたのでお詫びして訂正いたします。以下訂正した記事を掲載いたしましたのでご覧ください。

                 
 

『ナイロビサミットで逆風を追い風に』

ドナルド・トランプ政権の誕生以降、米国からの拠出停止が続く国連人口基金(UNFPA)。ナタリア・カネム事務局長は2019年1月23日、国連本部で開かれた執行理事会において窮状を訴え、各国に支援を呼び掛けた。逆境が続く中、打開策はあるのか。UNFPA東京事務所の佐藤摩利子所長が、リプロダクティブ・ヘルス支援の重要性と今後の方針について語る。
 

【UNFPAが取り組む「3つのゼロアクション」】

 20世紀は科学技術の発展と飛躍的な経済成長の一方で、爆発的な人口増加の時代でもあった。世界の人口は1900年の16億人超から2011年に70億人を超え、50年にはおよそ98億人に達するとされる。

 UNFPAの前身である国連人口活動基金は、人口を「数」ではなく、「人間の尊厳」「選択の権利」という観点から捉え、世界のリプロダクティブ・ヘルス/ライツに取り組む国連機関として1969年に活動を開始し、今年で50周年を迎える。めざすはすべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に行われ、全ての若者の可能性がみたされる社会である。

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、子どもを産むことに関わる全てにおいて身体的・精神的・社会的に良好な状態であること、また女性が自分の身体に関することを自分自身で決める権利のことを言う。この概念は、1994年にエジプトのカイロで開かれた国際人口開発会議(ICPD)で定義された。ICPDは74年のブカレスト、84年のメキシコシティでの会議の成果を継承し、「人口と開発」の観点から「持続可能な開発」が提唱された。

 ただ、カイロ会議のICPD行動計画では、宗教、社会、文化的背景の違いから「セクシュアル」や「ライツ」の概念についての合意がとれず、ミレニアム開発目標(MDGs)には含まれなかった。だがその後、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRHR)という言葉は国際保健分野で市民権を得るようになり、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットには「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスとリプロダクティブ・ライツ」として記載されるに至った。

 ICPD行動計画の下、UNFPAはこれまでwomb-to-tomb(子宮から墓場まで)、つまり人生におけるさまざまな局面で女性の健康とその権利を支援し、寄り添ってきた。いまだに世界では、毎年460万人の女子が女性性器切除(FGM)を受け、1,200万人の女子が児童婚を余儀なくされ、年間8,600万人の女性が望まない妊娠に直面し、毎日800人の妊産婦が命を落としている。また2億人以上の女性が家族計画のサービスを受けることができず、3人に1人の女性は身体的・社会的・性的暴力の被害に遭う。さらに、紛争、災害、貧困、そしてさまざまな格差により、人間としての尊厳や命すら奪われている。

 UNFPAはICPDとSDGsを踏まえて、2030年に向けた「3つのZEROのミッション」を掲げている。

 一つ目は、 家族計画サービスへのアクセスが満たされない状況をZEROにすることだ。家族計画は、女性のエンパワメントや持続可能な開発には不可欠である。UNFPAは政府などと共に、全ての人が質の高い家族計画を含むSRHRサービスを享受できるようにするほか、包括的な性教育や若者のリーダーシップ育成を通じて、SRHRを推進している。

 二つ目が、妊娠・出産による妊産婦の死亡をZEROにすることだ。各国政府や他機関と共に母子健康制度の強化、助産師や医療従事者の育成を通じ、性と生殖に関する健康の向上に取り組んでいる。

 三つ目は、特に性暴力などのジェンダーに基づく暴力(GBV)や、児童婚などの有害な慣習をZEROにすることだ。政策立案者、司法・医療関係者や人道支援団体と共に、ジェンダーに基づく暴力の予防と対策に取り組んでいる。また、FGMや児童婚といった有害な慣習の撲滅を目指し、ジェンダー平等の推進のためにコミュニティーの男性や少年、宗教指導者なども巻き込みながら活動をしている。

 他にも、各国政府からの要請により人口統計の分野でも支援を実施している。特にアジアでは高齢化のスピードが加速しており、少子化や人口減少といった問題に直面している。これに対し、UNFPAは人口統計データを用いてヘルシー・エイジングを推進する取り組みを始めている。
 

【米国の資金拠出停止と求められる財政支援】

 2017年4月、米国は「UNFPAが中国において強制的な中絶や不妊を支持している」という誤った認識に基づいてUNFPAへの資金拠出停止を決定し、それは現在も続いている。米国は16年にはUNFPAの第4位のドナー国であった。過去にも共和党が政権を取る度に、UNFPAをはじめSRHRを推進する関連団体に対し資金拠出を中断してきた。

 その結果、人口増加の3分の1が集中しているアフリカのサハラ以南の貧しい地方では、避妊具・薬などの支援が途絶えたため、下がり始めていた出生率が上昇しているとのレポートもある。さらには、原理主義勢力の台頭や、政府の政策転換によりSRHRが制限されるようになった国も出てきている。

 このような逆風に立ち向かい、先に述べた3つのZEROのミッションを達成するためには、各国からのさらなる政治的支援が必要である。今年はICPD25周年、UNFPA設立50周年の節目の年でもある。これに伴い、11月にはICPD行動計画の実現を加速させるため、ケニアでナイロビ・サミットが開催される。この機会に、財政支援を含むより一層のパートナーシップの構築を呼び掛けていきたい。

 特に日本は、UNFPAの理事国であり、主要な資金拠出国の一つである。日本政府はSDGsターゲット3.8にあるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進しているが、UNFPAはUHCの実現および質の向上にはターゲット3.7のSRHRの推進が必要不可欠であると確信している。SRHRの達成を通じて、取り残されている女性の健康と命を救うことができるからだ。また日本では今年、G20や第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開かれる。国連総会ではUHCハイレベル会合などの重要な会議があり、国際的なUHC推進の動きが一層加速される。これを機にナイロビ・サミットへの機運を高め、SRHRに吹く逆風を追い風としていきたい。

 

国連人口基金(UNFPA)東京事務所 所長
佐藤 摩利子 (さとう まりこ)