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国連、ニューヨーク ― 世界中で、バレンタインデーは愛やロマンス、献身を祝う日です。この日に婚約や結婚をする人もいるでしょう。しかし、一般的には喜びのときとなり得るその瞬間が、おとぎ話で描かれるような幸福なものとならない人々が、何百万人もいます。18歳になる前に結婚する女性や少女たちがあまりに多いのです。彼女たちの多くが、学校を辞めさせられ、暴力にさらされ、心身ともに準備ができる前に親になるよう迫られています。 

児童婚は、最も脆弱で貧しく疎外された少女たちが巻き込まれることが多い人権侵害の一つです。しかし、児童婚の花嫁とその家族を何世代も続く貧困のサイクルに固定しながら、地域や社会に不幸をもたらすものでもあります。ある調査では、児童婚をなくし、少女たちが教育を受け、母親になる時期を遅らせ、収入を得られる仕事に就いて、それぞれの能力を十分に発揮することができれば、数十億ドルの収益と生産性を生み出す可能性があると指摘されています。  

国連人口基金(UNFPA)は例年通り、今年もバレンタインデーに、世界に児童婚を終わらせるよう訴えます。 以下は、児童婚に関する7つの事実です。世界における児童婚の実施状況やその影響についてより明確な認識を持つことは、世界のリーダーおよび若者たち自身にとって、児童婚を完全に終わらせるという持続可能な開発目標を達成する一助となるでしょう。

 

1. 児童婚は特別なことではなく、世界各地で起こっている

6億5000万人以上の女性と少女たちが現在、18歳の誕生日を迎える前から、結婚生活または法律婚ではない形態でパートナーとの同居生活を送っています。(児童婚は、配偶者の一方または両方が18歳未満であることと定義されています。)世界中の20歳から24歳までの女性の19%が、18歳未満の時点でパートナーと結婚または同居をしています。 そして、児童婚は低・中所得国で最も多く見られますが、どの国でも起こりうるものです。 

一方で、すべての児童婚やパートナーとの同居が、親や保護者の決定によるものではありません。思春期の若者たちが、親から独立するため、深刻な貧困や家庭内暴力などの困難から逃れるため、また婚外の性行為が制限されているため、性行為を行う唯一の方法と考えて、児童婚を選ぶことがあります。

16歳のガブリエラさん*は、法的な結婚ではありませんが、36歳のパートナーとブラジルで暮らしています。「母の夫は私を嫌い、彼の家に迎えてくれなかったので、パートナーと暮らすことにしました」とガブリエラさんは語ります。児童婚をした少女には珍しく、なんとか学校に通い続けることはできましたが、生活を変えなければならないこともありました。「彼は少し嫉妬深い性格なので、家族や友人との関係に影響しました」と言う、ガブリエラさん。「結婚前は自分がやりたいことは何でもすることができました。今は、パートナーに気を遣わなければなりません」

ザンジバルの宗教指導者や北マケドニアの人権活動家、モザンビークのコミュニティリーダーやマラウィの教師など、多くの人々がこの慣習の撲滅に向けて活動しています。

  

2. 児童婚を取り巻く状況は改善したが、まだ十分ではない

幸い、世界の児童婚の割合は少しずつ低下しています。過去25年の間にほとんどの地域で児童婚が減少し、また特に児童婚が多い地域では、この10年間で加速度的に状況が改善しました。

"I don’t want to get married right now. I want to continue my studies," said Shanti (name changed). "After all, it’s about my life and my rights." As a 16-year-old in India who learned about the harmful effects of child marriage in school, she fought off marriage to a 25-year-old distant relative. Here she talks to peers about their rights. © UNFPA India
「今すぐには結婚したくありません。 これからも勉強を続けたいです。これは私の人生と私の権利の問題です」とシャンティさん(仮名)は言います。インドで暮らす彼女は学校で児童婚の有害性を学んだことから、16歳で25歳の遠い親戚と結婚させられそうになったときも、自ら結婚に反対することができました。 この写真は、彼女が仲間たちに自分たちの権利について話している様子です。@UNFPA India

一方困ったことに、人口の増加により、児童婚撲滅の取り組みをさらに加速させない限り、結婚させられる少女の数を現在のペースで減少させていくことができないと見込まれています。裕福な家庭と貧しい家庭における児童婚の割合の差は、世界のほとんどの地域で拡大しています。また、児童婚を終わらせるための取り組みを妨げ、経済に広範囲にわたるダメージを与えた新型コロナウイルス感染症の影響によって、2020年から2030年の間に、本来行われなくてよいはずの児童婚が計1300万件発生すると見込まれています。  

警察、子どもの保護サービス、病院、ヘルプラインなどの利用記録から、新型コロナウイルスが児童婚に及ぼす影響を垣間見ることができます。例えば、バングラデシュでは、2020年4月から6月の感染拡大時には、ある子ども支援ヘルプラインへの暴力関連の相談件数が4倍になり、児童婚の事例を報告する電話も増加しました。同ヘルプラインに寄せられた児童婚関連の相談は、前月の3月には322件でしたが、4月には450件となりました。インドでも同様に、パンデミック時には子ども支援ヘルプラインへの電話が50%も急増しましたが、ソーシャルワーカーの介入により、898件近くの児童婚が未然に防がれました。

 

3. 児童婚は人道危機下で増加する傾向がある

紛争、避難、自然災害、気候変動などの状況下では、生活や教育システムが破壊されたり、性暴力のリスクが高まり少女の安全や家族の名誉への懸念が引き起こされたりすることから、児童婚がより行われやすくなります。全体として、不安定な状況下における児童婚の数は、世界の平均の2倍近くになります。

人道危機下の結婚でも、違う一面を持つものもあります。例えば、シリア難民の中には、家族構成の変化やサポートシステムによって、避難先のよりリベラルなホストコミュニティと交流し、伝統的な規範や制限を緩和した人々もいます。家族は少女たちが学校に通い続けることをより好ましく思い、働くことも許可しています。このような変化は、結婚における祖父母の関与を減らし、いとこ同士の結婚が一族以外との結婚に置き換わるなど、伝統的な結婚の慣習に変化をもたらしました。

 

4. 児童婚を終わらせるためのコストは、意外かもしれないが手の届かないものではない

2019年11月、UNFPAは、世界で行われている児童婚の90%を占める68の国々で、児童婚を終わらせるために必要な費用を見積もるジョンズ・ホプキンス大学との共同研究について発表しました。本研究はビクトリア大学、ワシントン大学、アヴニール・ヘルスとも連携しています。研究者たちは、同68カ国で2020年から2030年の間に児童婚を終わらせるためには、350億ドルしかかからないと結論づけました。報告書では、1件の児童婚を防ぐための費用は、一部の高級スニーカーと同額程度の600ドルであると述べられています。

教育への介入、エンパワーメントの取り組み、生計スキルトレーニングおよび児童婚に関する社会規範を変えるプログラムに350億ドルの投資をすれば、約5,800万件の児童婚を阻止することができるでしょう。その上、早婚を免れた女の子は、「家内企業により生産的な貢献」ができ、地域社会に大きな利益をもたらすことに繋がります。

 

5. 児童婚は、ほぼ全世界的に禁止されている

世界で最も広く賛同されている人権協定である、子どもの権利条約(CRC)と女性差別撤廃条約(CEDAW)は児童婚を禁止しています。この2つの条約は、ほぼすべての国によって署名または批准されています。


アナ·カビさん(左)とザイダ·ナ·ンファドさんは、児童婚から逃れるために、ある福音教会に避難しました。その教会は、一時は40人の少女を受け入れていました。@UNFPA Guinea-Bissau

しかし世界中で、国または地域の法律によって、条約の趣旨は異なるかたちで解釈されています。例えば、多くの国は、親の同意、宗教法、慣習法の下での児童婚を認めています。世界には法的に登録されない結婚も多く存在します。児童婚を違法とする地域でも、あまり厳密には執行されていません。

ギニアビサウは子どもの権利条約と女性差別撤廃条約、および、アフリカ人権憲章に基づく女性の権利議定書であるマプト議定書のすべてに署名していますが、子どもたちは親や保護者、裁判所の了承があれば結婚することができます。 アナ・カビさんは14歳だった2008年当時、両親に結婚させられそうになり、20キロ以上歩いて、強制結婚から逃れた少女たちの安全な避難所として知られる福音派の教会に辿り着きました。「私たちのコミュニティで、早婚は、文化的および経済的側面に関わるものとして、親たちによって正当化されています」とアブド·カサマ牧師は言います。 「親たちは、先祖代々続くそのような考えをもとに、教会にいる娘たちを取り戻そうと、銃器を用いることもあります」  

それでも、世界が良い方向に向かっている兆しはあります。 過去3年間に、フィリピン、ドミニカ共和国、および米国の6州が児童婚を禁止しました。インドネシアはこの慣習を終わらせることを約束し、モザンビーク議会は児童婚を違法とする法律を承認し、イングランドとウェールズは結婚の最低年齢を18歳に引き上げました。

 

6. 児童婚と10代の妊娠は密接に関連し、多くの場合、危険を伴う

児童婚はしばしば若年妊娠に繋がります。発展途上国では、思春期の出産のほとんどが、結婚関係にある少女たちによるものです。これらの若年妊娠は、母親になるには十分に身体が発達していない少女にとって、深刻な健康リスクをもたらします。世界中の15歳から19歳の少女の死因のうち最も多いものは、妊娠と出産による合併症です。


ベアトリス·セバスティアンさんは15歳で初めて妊娠しましたが、長期間に渡る分娩の後、赤ちゃんが死産となった上、出産時の外傷から産科ろう孔(フィスチュラ)を患いました。しかし約6年後に外科手術によってようやく治癒しました。@UNFPA Mozambique

モザンビークのベアトリス・セバスティアーノさんは15歳で妊娠しました。病院から遠く離れたところに住んでいたので、医療的な処置を受けられるまでに、陣痛開始から3日かかりました。子どもは死産となり、セバスティアーノさんは出産時の傷のため深刻な産科瘻孔に苦しみ、再建手術を受けるまで6年近く、社会的に疎外されていました。  

暴力を伴うケースもあります。イエメンのガダさん*は12歳で結婚し、13歳で第1子となる娘をもうけました。しかし夫は息子を欲しがり、ガダさんを罰するため、肉体的にも精神的にも虐待しました。2人目の子どもは男の子でしたが、15歳で3人目を妊娠したときに、ガタさんは絶望感を覚え、命を絶とうとしました。UNFPAが支援するセーフスペースの援助により、彼女は16歳のときに夫の元を離れ、現在は生活を立て直しつつ3人の子どもと暮らしています。

若年妊娠が、逆に、少女を結婚せざるを得ない状況に追い込む可能性もあります。未婚の妊娠に伴うスティグマを家族が受けないようにするため、また母子の経済的な安定を得るために、少女たちは、たとえ相手がレイプ犯であったとしても、子どもの父親と結婚せざるを得ないことがあります。

マラウィのイェンセン·ニレンダさんは15歳で妊娠した際に、地元の慣習から、子どもの父親である17歳の男性と同居しましたが、夫は数ヶ月のうちに彼女を虐待するようになりました。結納金を払った義理の家族は、ニレンダさんを手放すことを拒否しました。「私たちの文化では、少女や女性が離婚することは、家族や地域社会全体にとって不名誉なことです」と彼女は言います。「もしそうなれば、社会の一員でないように扱われたり、倫理観のない人と見なされたりしてしまいます 。」ニレンダさんは、やがてその家族から離れる方法を見つけ、現在は母親と生徒の役割を両立させています。

 

7. 児童婚を終わらせるためには少女のエンパワーメントが不可欠である

児童婚を終わらせるためには、児童婚に反する法律の強化と施行、ジェンダー平等の推進、少女の権利に対する地域社会のコミットメントの確保など、数多くの変化が必要です。


チナラ・コジェーヴさんは14歳と17歳で結婚させられそうになりましたが、2回とも拒否することができました。「私は法執行官となって、人々を助けたいです」と彼女は話します。@UNFPA Georgia/Dina Oganova

また若者たちは、自分の権利を知り主張するようエンパワーされなければなりません。つまり、若者たちには、 性と生殖に関する健康についての正確な情報、教育とスキル獲得の機会、およびコミュニティや市民生活への参加や関与のためのプラットフォームが与えられる必要があるのです。

このような情報や機会は人生を変える可能性があります。知識があれば、少女をはじめとする脆弱な立場に置かれた若者たちも、自ら啓発を行ったり、家族を説得して婚約を破棄または延期したりできるようになります。

ネパールのビディヤ・サハニさんは、家が経済的に困窮していたので、家事の担い手になるため、7年生で学校を辞めざるを得ませんでした。家族はまた、彼女を嫁がせようとしていました。 しかし、児童婚を防ぐための「ルパンタラン(「変革」の意)」というラジオ番組を通じて、サハニさんは彼女自身が持つ権利について学ぶことができました。「私は学校を続けようと決心しました」と彼女は言います。彼女は自分が学校に戻れるように両親を説得しただけでなく、「両親が私を結婚させようとしていると気づいたので、抵抗して、やめさせることができました」と語ります。

ジョージアのチナラ·コジェワさんは、一度ではなく二度、児童婚から逃れました。 「初めて結婚させられそうになったとき、私は14歳でした」と彼女は言いました。「17歳になったとき、今度こそ結婚させられそうになりました。しかし、私の人生は他人に決められるものではありません。 時間をかけて自分のペースで歩みたいのです。」UNFPAは、世界中のパートナーやコミュニティと協力して、少女を教育し、エンパワーし、児童婚の危険性に対する地域社会の意識を高めるために活動しています。  

UNFPAとUNICEFの「児童婚を終わらせよう-行動促進のためのグローバル・プログラム」は、児童婚が多い12カ国で活動しています。 2016年から2019年の間、このプログラムを通じて、約720万人の少女がエンパワーされ、3,000万人以上の人々がメディアによるメッセージやコミュニティ内での対話、および、その他のアドボカシーを通じて、このプログラムに関わりました。

多くの少女が自分自身の権利を主張できるようになりました。正義を求め、勝ち取った人もいます。マダガスカルでは、5人の少女のうち2人が18歳前に結婚しています。(現在20歳から24歳までの女性の13%が15歳前に結婚しています。)同国に住むナリンドラ・ソロンジャナハリーさん*は、15歳での結婚を強要した母親と、経済的支援と引き換えに彼女を妻にして虐待を行ってきた3倍近く年上の夫を告訴しました。結婚後すぐに、ソロンジャナハリーさんは、早期妊娠を避けるため、ユースセンターの家族計画サービスに密かに通い、未成年の少女に結婚を強制することは違法であると学びました。 彼女の夫は懲役10年、母親は執行猶予3年の判決を受けました。 「私の母は許しを請い、この慣習に直面している少女の権利を守らなければならないことを、他の母親たちに気付かせました」と彼女は言います。児童婚の花嫁だった少女は学校に戻り、ユースセンターで同世代に知識などを伝えるピア・エデュケーターとして、他の少女たちが望まない運命を避ける手助けをするようになりました。

北ウガンダに住む14歳のルースさんも、UNFPAが支援する思春期の少女向けのクラブ、Agile Empowerment and Livelihood for Adolescent (ELA:青少年のための迅速なエンパワーメントと生計)の活動の一環として、有害な慣習に対する啓発を行なっています。 ルースさんは、2匹の山羊といくらかのお金と引き換えに35歳の男性と結婚しなければならないという母親の命令を拒否して、家を追い出され、クラブのメンターと一緒に暮らすことになりました。「私の夢はパイロットになることです。そのために一所懸命勉強します」とルースさんは言います。 「私は、児童婚や名誉毀損、10代の妊娠や、ジェンダーに基づく暴力などと戦う強く素晴らしい女性になります」

 

*プライバシー保護のため、名前を変更しています。

この記事のオリジナル版は、2020年2月1日に発行されました。 本記事は新しい情報と更新されたデータで再リリースされたものを、駐日事務所にて翻訳・編集したものです。