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ケニアの首都ナイロビにあるアフリカ最大のスラム「キベラ」――。このキベラを構成する13の村のひとつ、ガトウェケラで、4人の娘とともに暮らすシングルマザーのユニス・アジャンボさんは、ジェンダーに基づく暴力の被害者のひとりです。「私は専業主婦で、夫にすべてを頼っていました。お金のことで夫婦間の争いが絶えず、辛い日々を送っていました。暴力に耐えられなくなって、離婚を決意しました」と、彼女は過去を振り返りました。

 

ユニスさんは離婚後、日々の生活費を稼ぐために便利屋のような仕事をしてきましたが、その後、男性の多い建設業界で溶接や塗装の仕事に就きました。

 

新型コロナウイルス感染拡大が始まると、多くの建設現場は閉鎖され、ユニスさんは収入源を失ってしまいました。「工事作業員はロックダウン中、建設現場内の共同宿泊施設に住むように言われました。私はチームの中で唯一の女性だったので、その方針に抵抗を感じました。そのうえ、5歳から15歳までの子どもたちの面倒を見てくれる人が私のほかにはいないので、家を離れて働くことはできませんでした」と、ユニスさんは話します。
 

私は、暴力に耐えられなくなって結婚生活に終止符を打ちました。

ユニスさんは現在、約200人の参加者の一人として、国連人口基金(UNFPA)ケニア事務所が日本の明治ホールディングス株式会社から支援を受けて実施するTujijenge Tujilindeプロジェクトで、経済的自立のためのトレーニングを受けています。Tujijenge Tujilindeとは、スワヒリ語で「自分たちの身は自分たちで守ろう」という意味があります。本プロジェクトの実施にあたり、UNFPAはキベラの女性支援組織 Feminists for Peace, Rights, and Justice Center (FPRJC)とケニアで活動する非営利組織 African Gender and Media Initiative Trust (GEM)*をパートナー団体として協働しています。プロジェクトでは、女性たちにシャンプー、ハンドソープ、食器用洗剤、そのほか多目的洗剤などの製造、ブランド化、販売方法をはじめとする実地訓練とビジネスの指導を行います。

 

パンデミックで経済的負担を強いられる女性たち

 

UNFPA、国連女性機関 (UN Women)、ケア・インターナショナル (CARE International)、オックスファム・インターナショナル (Oxfam International)が2020年に実施した調査により、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)がケニアの女性たちに経済的、社会的に大きな影響を及ぼしていることが明らかになりました。特にキベラのような貧しく、疎外されたコミュニティの女性たちは、生計を立てる手段を失い、家庭内でより暴力や緊張にさらされるという一層困難な状況にいます。このことは、Tujijenge Tujilindeプロジェクトに参加する女性たちが語るストーリーからも明らかです。彼女たちは今、新しい生計スキルを学ぶことで経済的に自立したいと考えています。

 

25歳のミリセントさんは、ホームヘルパーとして1日に500クローネ(約5ドル)を稼いでいましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で雇用主に解雇されてしまいました。「感染拡大後、人々はスラムからホームヘルパーを雇うことを恐れています。スラムの人々が感染拡大に一役買っていると思っているからです」と言うミリセントさん。彼女の夫もパンデミックの影響で仕事を失いましたが、ミリセントさんは石けんづくりで家族5人を養うための収入を得る見込みが立ったと喜んでいます。「棒状の石けんは誰でも作れますが、液体石けんはほかにはない製品です。私はパンデミックの今こそ、手指衛生を奨励するためにハンドソープを作り、キベラで販売したいと思っています」と彼女は意気込んでいます。

 

このトレーニングを通じて、女性たちは「FemiNg'arisha」(フェミガリシャ)というブランドの液体石けんを開発しました。「Ng'arisha」とは、スワヒリ語で「きれいにする、輝かせる」という意味です。彼女たちは、キベラに小さな店舗を設け、そこで石けんを販売するほか、訪問販売や店舗・スーパーでの委託販売も計画しています。

 

FPRJCの創設者であるエディター氏は、収入向上活動は、ジェンダーに基づく暴力のリスクにさらされている女性たちにとって身を守る力となると言います。「彼女たちには、経済的に自立するための手段が必要です。それがこのプロジェクトです。また、私たちの組織は、プロジェクト参加者に限らず、キベラの女性や少女たちに心理社会的なサポートを提供することで、女性たちが自信を持ち、ジェンダーに基づく暴力に対応し、かつ予防するための能力を強化しています」と語りました。

 

問題解決の鍵となる民間企業とのパートナーシップ

 

キベラにあるTujijenge Tujilindeプロジェクトの作業場を訪れたUNFPAケニア事務所代表のアデモラ・オラジデは、新製品の発売に向けた女性たちの努力と課題解決能力を称賛。「明治ホールディングス株式会社とのパートナーシップにより、パンデミック下でジェンダーに基づく暴力や有害な慣習と闘う女性たちへの支援を強化することができました。Tujijenge Tujilindeプロジェクトで第一に期待できる成果は、新型コロナウイルス感染症がスラムに住む弱い立場の女性や少女にもたらした困難な状況を改善するという点です。プロジェクトは同時に、ケニアの政策上の優先課題ビッグ・4・アジェンダ 、特に製造業の発展に貢献しています」と述べました。

 

Tujijenge Tujiilindeストアのオープニング・セレモニーは、地域の行政機関、UNFPA、明治ホールディングス株式会社、在ケニア日本国大使館からの代表者の出席の下、オンラインで開催されました。セレモニーでは、プロジェクト参加者により、FemiNg'arishaブランドの7種類の商品が紹介されました。明治ホールディングス株式会社の山下舞子氏は、「明治ホールディングス株式会社は、人々が安全で健康的な生活を送れるように、食品や医薬品を製造する日本の企業です。私たちは母子の健康をとても大切に考えており、このプロジェクトを通じてキベラの女性たちを支援できることを嬉しく思います」と話しました。在ケニア日本大使館の由佐泰子は、UNFPAと明治ホールディングス株式会社は、地域のコミュニティと民間企業が協働することで脆弱な立場に置かれた人々のためのソリューションを開発できると示した、と述べました。

 

Tujijenge Tujilindeプロジェクトにおいて第一に期待できる成果は、新型コロナウイルス感染症がスラムに住む弱い立場の女性や少女にもたらした困難な状況を改善するという点です。本プロジェクトは同時に、ケニアの政策上の優先課題ビッグ・4・アジェンダ、特に製造業の発展に貢献しています。

 

FemiNg'arishaの製品には、多目的洗剤、ブリーチ、消毒用ソープ、食器用洗剤、ハンドソープ、染み抜き剤、シャンプーがあります。

 

UNFPAの戦略的ビジョンは、ジェンダーに基づく暴力や有害な慣習、回避可能な妊産婦死亡、家族計画のアンメット・ニーズ(必要とされていることが満たされていない状態)をなくすことです。女性の経済的エンパワーメントは女性自身による意思決定や主体性を保障し、それにより、暴力に対する脆弱性を軽減し、妊産中の女性の健康状態を良好にするという相乗効果を得ることもできます。UNFPAケニア事務所代表のアデモラ・オラジデは、「経済的に自立できるようになった女性は、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)やリスクについて、自ら調整し選択することができるようになります」と話しています。

 

注:UNFPAは特定の企業、ブランド、商品、サービスを推奨するものではありません。