フィリピン・マギンダナオ州 ダトゥ・ピアン:
「私は若くして結婚しました」と、穏やかな声で話す24歳のライサ・マスカットさんは、農業を営む夫と家庭を築き、専業主婦をしています。恥ずかしがり屋で、どことなく幼さを感じさせる彼女は「今回の出産は3人目。今、妊娠8カ月です」と、明かします。
母親の不安
「最初の2人は自宅で出産しました」と、ライサさん。「医療施設は自宅から遠く離れていて、交通費もかかるので、通うことができませんでした。この町では、みんな自宅で出産をしているので、何の問題もないと思っていました」と、語ります。
「それでも、出産時の合併症や難産が、この町の自宅出産で起きているという話はよく耳にしていました。幸いなことに、私の子どもたちは健康でいます」とライサさんは振り返ります。
フィリピンでは、毎年約2,600人の女性が妊娠・出産に伴う合併症で命を落としています。そして、これらの合併症は、不測の事態に対応するための医療用品・機器が揃っていない自宅出産で多く発生しています。そんな中、新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらしたロックダウンやヘルスサービスの中断により、2020年の妊産婦死亡事例は26%まで増加する可能性があります(UNFPA, UPPI 2020)。
キャッシュ・フォー・ヘルス:妊産婦の健康促進
国連人口基金(UNFPA)フィリピン事務所は、日本政府の支援を受けて、マギンダナオ州で「キャッシュ・フォー・ヘルス・プロジェクト」を実施し、妊娠中の女性や出産後間もない女性の保健に関する行動変容を促しています。UNFPAは「キャッシュ・フォー・ヘルス」を通じて、妊産婦に対し、4回の妊婦健診、施設での分娩、産後の診察のための経済的支援を行っています。母親が、救命のために必要な妊産婦保健サービスを受ける間にかかる、薬や交通費などの妊娠・出産に関する費用やその他の生活費なども、この支援によりまかなわれます。
ライサさんのように支援を受ける女性たちは、妊産婦の健康管理に加えて、産前産後の定期的なケアの必要性など、健康に関する重要な情報も受け取っています。「出産前の検診は、すべての妊婦にとって重要です。訓練を受けたスタッフによる手助けがあることで、出産はより安全になると実感しました。バランガイの産科センターで出産するのも安心です」とライサさんは話します。
「サポートがあることは、大きな安心に繋がります。赤ちゃんにとっても、幸せなことです。」
変わり始めた女性たち
「このお金は、出産や子どもたちの必要のために使います」と話すライサさん。
何人の子どもを持ちたいかという質問に、「夫次第ですが、私は、子どもは3人で十分だと考えています」と彼女は答えました。
妊娠中の女性たちは、保健センターを訪れると、産後の家族計画に関するカウンセリングを受け、出産の間隔や適切な家族計画の方法などを学ぶことができます。UNFPAは、マギンダナオ州のラジオ番組を通じて、家族計画を含むリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)に関する必要な情報も提供しています。
「このサポートにとても感謝しています。経済的な支援は助かります」と彼女は言います。「もっと多くのことを学びたいと思っています。健康や女性の関心事について、もっと知ることができる活動に参加できることを願っています。コミュニティの他の女性たちも、私と同じように感じているかもしれません」。ライサさんの口調は、母親として、そして一人の人間として、自信に満ち溢れたものに変化していました。
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