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第16回国際エイズ会議(トロント)では、「予防」と「最新技術」がキーワードであるが、国連人口基金(UNFPA)は、何百万の人々が未だに最も簡単で手に入りやすい感染予防手段であるコンドーム(女性、男性用)にアクセスできない現状への注意を呼びかける。

今回の会議には、世界中から研究者、活動家、政策決定者など計25,000名が参加し、地球規模の感染症の対応策として「予防」が最も費用効果があり持続可能なものであるということを国際社会が認識した初めての会議となった。ビル・クリントン前米大統領とビル・ゲイツ米マイクロソフト共同創立者が基調講演を行った。二人とも感染の広がりを防ぐためにはマイクロビサイド(細菌剤)のように、女性自身で使用可能な手段が必要であると強調した。特に、若い女性や少女の間の新規感染率が最も高く、その必要性は極めて高い。また、ワクチンの効果や、男性の割礼がHIVウィルスの感染率を遅らせるという内容にも注目が集まった。

国連人口基金HIV/エイズ部長スティーブ・クラウス(Steve Kraus)医師は、次のように主張している。「新しい予防技術に関する議論は、地球規模の感染症への対応策として確かに重要な一歩ではありますが、一方でこれらの技術が広く普及するのは、当分先のことになります」、「この瞬間も、人々はHIVに感染しつづけています。新しい技術の議論や研究成果を称える一方で、我々は現実に手に入るものを未だに活用できていません。コンドームは既に利用可能なものですが、十分に普及していないのです。その効果は、HIV 感染予防への最も有効な手段です。」

今日、推定80~100億個のコンドームが低・中所得国で配布されているが、その数は全需要の半分でしかない。HIV感染率が最も高いサハラ以南のアフリカでは、男性は年間平均10個のコンドームしか手に入らない。女性用コンドームは、ジンバブエやマラウイのような感染率の高い国で需要が高まっている上に、その配布数自体も増えてはいるが、コンドーム全体では0.3%を占めるに過ぎない。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の推定によると、高まる需要を満たすための資金は、現在3億2千万米ドル(年間)から2015年にはその2倍にあたる5億~6億3千万米ドルが必要となる。

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HIV感染した妊産婦に対するサービスの欠如: 国連人口基金、総合的なリプロダクティブ・ヘルスサービスの不足を警告

2006年8月18日
ニューヨーク、国連

トロントで開催された第16回国際エイズ会議における治療の拡大を目指す熱心な議論にもかかわらず、HIV感染者の中でも特に妊産婦に対するサービスの欠如が専門家たちや国連人口基金(UNFPA)によって指摘された。「今までのプログラムは失敗でした」と国連人口基金のリプロダクティブ・ヘルス部長アルレッティ・ピネル医師は述べた。「財源支援の面では世界規模のHIVへの対応は充実しているにもかかわらず、妊産婦は未だに母子感染を防ぐための薬を得る手段がありません。膨大な数の妊産婦とその子供たちが死の危険にさらされているのです」

2001年には世界の首脳陣、政策立案者、そして活動家が国連エイズ特別総会に集まった。その会議で合意に達した「国連エイズ特別総会の政治宣言」の中の目標のひとつは、2005年までに抗レトロウイルス薬を受けられるHIV感染した妊産婦の割合を80%まで増加するというものだった。しかし現在、その割合は世界的に9%にとどまり、目標であった80%に達した国は一つもない。一方、まだ十分ではないが、全体的な治療は20%まで増加し、21カ国が政治宣言で設定された目標である50%に到達した。実際のところ、政治宣言の中で達成した目標は、HIV対策に指定された資金額だけである。

ピネル医師は、母子感染予防が極端に遅れている理由を次のように説明している。HIV感染は、現在一般的におこっているリプロダクティブ・ヘルスケアになかなか手が届かないという問題をさらに悪化させている。「現在、毎年、数十万もの女性が出産時に亡くっています。この出産時の死亡という問題にさえも着手できないのですから、HIV母子感染予防の失敗も当然のことと言えるでしょう」

たとえ命を救うのに必要な薬を手にすることができても、多くは出産後に治療の権利を取り上げられてしまう。それは、母親の死につながるだけでなく、膨大な数の孤児を生むことになり、幼児や子供の死亡率を高めることにもなる。加えてピネル医師は次のように述べた。問題の一つに、女性がいまだに生殖の一つの" 個体"としてしかみられていない現状があり、その一方で、男性がその妻、娘、姉妹に治療を受けさせるかどうかを決定しているということがある。さらに多くの場合、女性は最後に自分自身のHIV感染を知らされるのである。医療従事者が最初に伝えるのは、その女性の夫や親戚の男性なのである。「言うまでもなく、この現状は女性が検診に行くことを奨励することにはなりません」とピネル医師は述べた。