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UNFPA事務局長ナタリア・カネムは、世界人口白書2022の発表に際し、声明文を発表しました。

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声明文
ナタリア・カネム 国連人口基金(UNFPA)事務局長
世界人口白書2022  "見過ごされてきた危機「意図しない妊娠」"

 
シエラレオネのマムスは、14歳で妊娠しました。フィリピンのラフマディナは、高校の1年生が終わる前に妊娠し、結婚しました。インドのムクルは、既婚で避妊をしていましたが、第一子の出産から1年足らずで妊娠5カ月であることがわかり、ショックを受けました。エルサルバドルのヤハイラは、ボーイフレンドと一度だけ性行為をしましたが、彼女はそれまで性教育を受けたことが全くありませんでした。
 
「世界人口白書2022」によると、入手可能なデータによれば、4人に1人の女性がセックスを拒否することが出来ず、自分自身のからだについての自己決定権を持っていません。
 
その結果、世界の妊娠の半数近くが意図しない妊娠であり、その数は毎年1億2100万件に及ぶのも不思議ではありません。影響を受ける女性にとって、妊娠するかどうかという、最も人生を左右するリプロダクティブ・チョイスの自由は皆無です。
 
2030年を達成年限に定めている持続可能な開発目標では、女性のからだの自己決定権とジェンダー平等を認め、女性が性的関係、避妊、リプロダクティブ・ヘルス・ケアについて十分な情報を得た上で意思決定をする能力の重要性を認めています。全世界の妊娠の約半数が選択によるものではないと推定されていることは、女性の生殖に関する自由が認められていないという憂慮すべき事実です。
 
しかし、この危機はほとんど目に見えないため見過ごされてきました。それは、この状況は非常にありふれたものだからでもあります。ヨーロッパの中心地を含め、あらゆる場所で起きているのです。ほぼすべての人が、意図しない妊娠を経験した人を知っているでしょう。
 
もちろん、意図しない妊娠だからといって、歓迎されないというわけではありません。意図しない妊娠の多くは、喜びとともに迎えられ、生まれた子どもはとても愛されています。しかし、幸運な結果を祝う一方で、そもそも選択の欠如によって妊娠が引き起こされたことも認めなければいけません。
 
また、こうした望ましくない結果を軽視することは間違っています。積極的に望んでいない状況、時期、条件、さらには望んでいない相手との不本意な妊娠によって女性や少女は苦しむことになるのです。意図しない妊娠の60%は、明らかに望まない妊娠であるため、中絶に至り、多くの中絶方法が安全ではないことから、妊産婦死亡の大きな要因となっています。
 
では、なぜ今このような話をするのでしょうか?なぜ妊娠や女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)について議論するのでしょうか?その疑問は理解できますが、非常に残念な疑問でもあります。なぜなら、女性と少女の最も基本的な権利が、特に最も危機的な状況下にあるときに、いかに簡単に後回しにされるかを示しているからです。本白書では、こうした権利が平和な時にはいかに無視され、紛争や不安定な時にはいかに攻撃の的にされているかを示しています。
 
紛争の恐怖、COVID-19、気候変動、大規模な移住、人種的な不平等など、他にも新聞の見出しとなるような課題は多くあります。こうした課題はどれも独立して起きているのではなく、意図しない妊娠も同様です。私たちの世界は相互につながっており、望まない出産をするという個人的な出来事も大災害の一部であり、相互に関係しています。
 
COVID-19の世界的流行によるロックダウンでは、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・サービスや避妊具・薬へのアクセスが妨げられ、意図しない妊娠の増加につながったとき、私たちはこの問題を目の当たりにしました。また、人道危機下において、女性や少女が性的暴力のリスクの増加に直面していることも目の当たりにしています。そして女性や少女のからだが自分自身のものであるとみなされていないことも、社会全体に影響を及ぼしています。意図しない妊娠は、影響を受ける女性にとっては個人的な問題だけではなく、家族、社会にとっては健康の問題、そして国や国際社会にとっては人権の問題なのです。
 
あまりにも長い間、人々は女性の自己決定権が認められない状態を当たり前のことだとして受け入れてきました。法律、慣習、伝統、家族のルールといったシステム全体により、男性が女性のからだと生殖能力を支配し続けているのです。国際社会が、すべての人に子どもの数と産む時期を自由に選択する権利を認めたのは1968年でした。そして、婚姻関係があっても意思に反する性行為は人権侵害であると認められたのは、やっと1993年のことでした。
 
それ以来、世界の指導者たちが共通の人権原則に署名し、ジェンダー平等を指示する声が高まっています。また、相互につながった私たちの世界では、少数の人々の運命が多数の人々の未来に影響を与えるということも、間違いなく共通の理解となっています。少数の人々が疎外されることで、国境や世代を超えて人々の逆境が広がることもあるのです。このような状況に対処するために、世界は持続可能な開発目標を達成するために取り組んでいるのです。
 
すでに述べたように、意図しない妊娠は妊産婦の死亡を引き起こします。「世界人口白書2022」は、意図しない妊娠の割合が、ジェンダーの不平等、経済発展の停滞、セクシュアル・リプロダクティブ・ライツの制約の多さと強く相関していることを明らかにしています。また、健康状態の悪化、教育や収入の損失、家族の困窮の増加など、意図しない妊娠に関連する莫大なコストを示しています。意図しない妊娠は、医療制度への出費を何十億ドルも増加させ、将来の世代に悪影響をもたらすのです。
 
自分自身のからだについての情報や選択の欠如による意図しない妊娠によって、輝く未来の生活のための教育機会を奪われ、貧困に追いやられる少女のために立ち上がることを忘れてはいけません。貧困がもたらす破壊的な波及効果は、少女個人や国境を超えて人がいることを忘れてはいけません。私たちは皆、それにより貧しくなっており、世界の発展が脅かされているのです。
 
2億5千万人以上の女性が妊娠を避けたいと願いながら、安全で近代的な避妊方法を使っていません。私たちのシステム、社会、指導者、政府、メディアは、こうした状況を危機として認識しておらず、世界中の人々の権利と福祉に予期しない影響を及ぼしています。目を開いて、見過ごされてきた危機を認識しましょう。これは警鐘です。
 
本白書は、特に人道危機的な状況下において、見過ごされている危機を理解し、認められていない女性と少女の価値を認め、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを確保し、ジェンダーに基づく暴力を終わらせ、セクシュアル・リプロダクティブ・ライツを保障するために、全ての人の認識を変えるように求めています。
 
意図しない妊娠の問題を解決するために、私たちは政策立案者やコミュニティのリーダーに対して、優先順位を変え、女性と少女のための選択肢と資源を増やすよう呼びかけています。女性と少女の価値を高め、その声に耳を傾け、彼女たちが望む、そして必要とする避妊サービスと情報、つまりスティグマの無い、からだの自己決定権をサポートするサービスに投資してください。ジェンダー平等を約束するだけでなく、行動で模範を示してください。
 
私たちは、このような行動が真の変化をもたらすことを知っています。私たちは、先ほど述べた少女たちの人生でそれを目の当たりにしています。シエラレオネのマムスは、地元のNGOのメンターから、少女時代には受けられなかったサポートを受け、看護師になりたいという夢を叶えるために教育を再開することができました。ラフマディナは、自分にはなかった選択肢を娘に与えようと決めています。そして、ヤハイラは2人の男の子を育て、ジェンダー不平等な規範を捨て、避妊などの問題についてオープンに話しています。
 
しかし、この危機に対処するためのコストを、意図しない妊娠を経験した女性のみに負担させてはいけません。それは、私たち全員の責任であり、私たち全員が行動すべきなのです。
 
私たちは、政府が家族計画のために専用の予算枠を設けることを約束するとき、行動を起こします。
 
私たちは、危機対応担当者が、災害で被災した女性や少女の性と生殖、月経に関する保健衛生のニーズに配慮することで、行動を起こすことができます。これらは、命を救うために不可欠なサービスです。
 
宗教指導者のパートナーが包括的性教育へのアクセスを促進することは非常に重要です。私は、より多くの宗教指導者が、信仰と人権、女性の権利の間に何らかの矛盾があるという考え方を問い直すことを強く求めます。
 
私たち一人ひとりが、自分の健康やからだ、将来について基本的な決定をする力を持って初めて、より公正公平で、豊かな世界を実現することができるのです。
 

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