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北キブ州、コンゴ民主共和国 - 「銃声を聞いて逃げてきました。私は妊娠7カ月でした」と、北キブ州のルサヨに住む、5人の子どもを抱える30歳の母親、タンティンは話してくれました。

武装集団が彼女の村を攻撃したとき、彼女は家族とともに逃げ出し、避難キャンプに身を寄せました。仮設テントに避難している約113,000人は、2022年3月以来、同州を取り囲む不安と暴力から逃れた80万人以上の避難民の、ほんの一部です。

性と生殖に関する健康と保護のニーズは、特に脆弱な弱い立場に置かれている避難民女性や少女、新生児にとって大変深刻です。国内の妊産婦・新生児死亡とHIV有病率は非常に高く、性暴力によってもたらされた被害の甚大さを物語っています。

タンティンが避難したルサヨキャンプには推定4,500人の妊産婦がおり、そこにいる全員が窮屈で不衛生な環境で生活し、最も必要であるヘルスサービスへのアクセスはほとんどない状態でした。彼女は到着後すぐに、一番近くにある地元の保健センターで産前健診を受けるために、バイクで4キロ以上移動しました。しかし、何時間も待たされた挙句、診察されることなく帰されました。センターは既に手一杯で、妊婦に十分なケアを提供できない状態だったのです。

そんな彼女の運が好転したのは、他の女性から、キャンプ地で活動するUNFPAの移動診療所について聞いたときでした。彼女は、「それを聞いた時、代わりにその診療所に行くことを決め、産前健診を出産前に受けることができました」と言います。

危険な出産

2023年3月末時点で、北キブ州には10万人以上の妊産婦がいると推定されていますが、暴力が激化し、保健所へのアクセスがますます危険にさらされてきているため、彼女たちのウェルビーイングへの懸念が高まっています。

タンティンの陣痛が始まった時、「私は痛みを感じ、移動診療所に行きました。すると2人の女性が出迎えてくれて、すぐに診察してくれました」と振り返りました。当時勤務していた助産師のビヨムベ・マリー・ムパリは、「彼女は到着したとき、大量に出血しており、子どもの心拍は感知できませんでした。明らかに危険な兆候でした。より高度な処置が可能なルサヨの保健センターに避難させるために、まずは彼女の容態を安定させる必要がありました」。

医療チームはタンティンに点滴を打ち、30分後にはUNFPAのパートナーであるカリタスが提供する救急車に乗って、移動診療所の助産師とともにルサヨの保健センターに向かいました。彼女は直ちに処置を受け、その日遅くに出産しました。ルサヨではUNFPAの支援により、リプロダクティブ・ヘルス・キットの提供や医療従事者のトレーニングなどが行われているため、助産師による迅速な対応により、今回のような難しい出産も可能となりました。

タンティンは、ルサヨのセンターで1日過ごした後、夫と子どもたちが待つ避難キャンプに戻りました。彼女はUNFPAに対し、「移動診療所は私たちにとって重要かつ必要不可欠なものです。移動診療所は、頼れる先や資金の無い避難中の妊産婦を助けてくれる存在です。私は今回センターに運ばれる前から、診療所の無料診療を受けていました」と話してくれました。

多大な負担を強いられているコンゴ民主共和国のヘルスサービス

この移動診療所は、キャンプに避難している女性や少女の性と生殖に関する健康ニーズに応えるため、2023年3月にUNFPAによって設置されました。その後、訓練を受けた助産師3人を含む5人のスタッフが、毎日平均3人の妊産婦を治療してきました。

これまでに、チームは現地で20件以上の出産に立会い、100人近くの女性をルサヨの保健センターに紹介しました。また、200人以上の女性が産前健診を受け、55人のジェンダーに基づく暴力の被害者がクリニックで医療と助言を求めてきました。

UNFPAコンゴ民主共和国事務所代表のユージン・コングニュイは、ちょうどタンティンが出産した時に保健センターを訪れていました。彼は「(移動診療所の)ニーズは非常に大きい。多くの避難民と妊産婦がいます。家族計画やジェンダーに基づく暴力からの保護などに対して、重要なニーズがあるのです」と語りました。

少数の女性が近代的な避妊具・薬を希望していますが、家族計画のニーズが満たされない状況が懸念されるため、UNFPAは、意図しない妊娠や性感染症の急増に対処するため、地元コミュニティへの啓発活動を強化しています。

ルサヨ以外での対応


北キブ州ルサヨのUNFPA移動診療所で新生児を抱くタンティンさん。© UNFPA/Junior Mayindu

民間人は紛争の最も重い代償を払っています。特に女性や子どもたちは、疲れ果て、トラウマを抱え、性的暴力の高いリスクにさらされながら、野宿しています。ルサヨに加え、UNFPAはブレンゴとブジャリに移動診療所を設置し、州内の2つの産科病院の修復を支援しています。

紛争の発生以来、資格を持った医療従事者が1,200人以上の妊産婦の死亡を予防し、3,800件以上の出産に行われました。北キブ州全域で約4,000人が避妊のアドバイスと物資を求め、20トンのリプロダクティブ・ヘルス・キットと5,000個の尊厳キットが配布され、2,200人以上のジェンダーに基づく暴力の被害者がUNFPAクリニックで医療ケアを受けることができました。

これらの支援はすべて、UNFPAとコンゴ民主共和国政府、地元NGOとの協力、そして日本からの資金提供により実現しました。UNFPAは同国内全域の人々への支援を継続し、今後数か月に渡り、すべての女性と少女が必要とする質の高いサービスを無料で受けられるようプログラムを拡大しています。

2023年、UNFPAはコンゴ民主共和国の女性と少女を支援するために5,300万米ドル以上を求めていますが、これまでに資金提供されたのは、その5分の1にすぎません。

※英語版オリジナルはこちらです