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「妊産婦の健康を守る基金」2010年活動報告

「妊産婦の健康を守る基金」2010年活動報告

はじめに

2009年から2010年のおよそ1年間にわたり、国連人口基金東京事務所は「お母さんの命を守るキャンペーン」を実施し、2010年末の時点で、合計3万6,666名のサポーター登録と、キャンペーン終了後の寄付を含む831万4,734円のご寄付をいただきました。寄付金は「妊産婦の健康を守る基金」の一部として、医療体制が整っていない国の安全な妊娠および出産を助ける活動に役立てられました。皆さんの温かいご支援、本当にありがとうございます。


妊産婦の健康を守る基金

「妊産婦の健康を守る基金」は、2008年に国連人口基金が、ミレニアム開発目標5(妊産婦の健康の改善)を達成するために設立した基金で、国連人口基金の活動の中でも、特に妊産婦と新生児の命と健康を守る活動に資金を充てています。

「妊産婦の健康を守る基金」は、
  ・各国の保健計画の策定および実施を支援し、各国の自発的な開発を促す
  ・各国の運営力を高め、持続可能な活動を支援する
という二点を原則としており、各国の医療制度の問題点の調査・分析を支援しています。また、これに基づく政策策定を促し、各国が安全な妊娠・出産を支援する体制を整え、それを運営していけるよう働きかけています。

主に、以下の4つの分野において経済的・技術的支援を行っています。

(1) 家族計画の普及

妊産婦死亡率・罹病率が高い国では、保健システムが不十分なだけでなく、家族計画が十分に実行されていないという現状があります。2億人以上の女性が、必要な情報や、パートナーや地域のサポートおよび医療が不十分なため、家族計画を実行できずにいます。妊娠の結果、中絶を選ぶ女性は、毎年少なくとも全妊娠女性の38%にあたる5,000万人に上り、毎年7万4,000人は安全でない中絶が原因で死亡しています。望まない妊娠を減らすためには、女性が妊娠するかしないか決定できるようになり、安全に出産するためには、出産間隔に配慮する必要があります。これにより、妊産婦・乳幼児死亡率が下がるだけでなく、母親が健康であれば、少女が継続的に教育を受けられる可能性も高まり、ひいては若年結婚や若年出産の減少にもつながります。このため、カップルや個人に家族計画を行うメリットを認識してもらい、出産時期を調節するための正しい知識を広め、安全で効果的な避妊薬(具)を提供することが必要です。「妊産婦の健康を守る基金」では、各国による包括的な家族計画プログラムの実施を支援しており、無料で避妊を行えるようにするための政策提案も行っています。2010年は以下の活動を支援しました。
  ・家族計画を含む保健政策の策定
  ・家族計画の知識の習得を盛り込んだ助産師養成プログラムの作成
  ・地域間格差や経済格差に配慮した家族計画の普及
  ・助産師による啓発活動や、医療施設での家族計画に関する患者へのアドバイスの実施
  ・地方における普及活動(移動式クリニックで行うアウトリーチ活動など)
避妊実行率(近代的避妊法)は現在、先進国では58%ですが、後発開発途上国では22%です。同様に、思春期の出生率(15~19歳に出産する女性の割合)は、少女1000人あたり、先進国では21人、後発開発途上国では103人です。このような格差を是正するために、引き続き家族計画の普及、およびそのための政策策定に取り組む必要があります。

ニジェールの挑戦 ― 家族計画プロジェクト

 

(2) 専門技能者の立会いによる出産の普及

医師や助産師などの専門技能者は、出産の立会いや緊急産科ケア・新生児ケアだけでなく、以下のとても重要な役割も担っています。
  ・家族計画の普及
  ・フィスチュラの予防
  ・性感染症の予防および治療
  ・HIVの母子感染の予防
  ・女性や女児に対する暴力の防止
  ・女性性器切除(FGM/C)の防止
  ・保健推進員の管理
このため、専門技能者の育成支援は、ミレニアム開発目標4(乳幼児死亡率の削減)、目標5(妊産婦の健康の改善)および目標6(HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止)という3つの開発目標の達成に欠かせません。「妊産婦の健康を守る基金」は、国連人口基金と国際助産師連盟(ICM)が立ち上げた助産師プログラムを通じて、以下のような支援を行っています。
  ・助産師学校の設立、および教材や教育プログラムの提供
  ・世界保健機関(WHO)・国際助産師連盟が定めた技能基準を満たすカリキュラムに則った助産師養成プログラムの導入
  ・助産師の育成や就職の支援
  ・各国の助産師協会の設立
  ・助産師が基礎的な救命措置を施す権限を認める法律制定の推進
2010年は、妊産婦死亡率の高いサハラ以南アフリカ、ラテンアメリカ、およびアジアの22カ国を支援し、助産師の育成や、地方の助産師不足の解消に貢献しました。2011年は支援国を30カ国以上に拡大する予定です。

コートジボワールの助産師支援 ― 「産科病院コンテスト(concours maternités accueillantes)」

 

(3) 緊急産科ケア・新生児ケアの普及

助産師が救命措置を施すことが法律で認められている場合は、助産師が出産に立会うことにより、8割から9割の妊産婦死亡を防ぐことができるといわれています。しかし現在、助産師が立会う出産は、後発開発途上国では全体の38%程度にとどまっており、先進国の99%という数値に比べ大きな格差があります。開発途上国では、妊娠・出産時に起きる合併症が、15歳から49歳の出産可能年齢の女性の主な死亡原因となっています。合併症が起こった場合には、迅速に適切な処置を受けることが何よりも重要となります。出産前後に起こる妊産婦の死亡の大半は、主に陣痛開始から出産後48時間以内に起きており、分娩後出血の場合には2時間弱で妊産婦が死亡します。このため、開発途上国で解決すべき課題とされているのが、以下の「3つの遅れ」です。

  ①治療を受けることを判断するまでの遅れ

  ②緊急産科ケアが受けられる病院や診療所を見つけ、そこに辿り着くまでの遅れ

  ③適切かつ十分な治療を受けるまでの遅れ

優れた助産師は、3つの遅れの1と2の時点で素早い判断を下し、3の時点で、専門医に妊産婦を引き継ぐまでの間に必要な処置を施すことができます。したがって、助産師の育成は優先課題となっており、2010年には、「妊産婦の健康を守る基金」が前年から支援していたブルキナファソやカンボジアなど9カ国において、世界保健機関・国際助産師連盟が定めた助産師の技能基準に基づく教育課程が採用されました。また他6カ国では、教育課程の見直しが進められました。助産師の技術を底上げし、より多くの人が基礎的な緊急産科・新生児ケアを受けられるように、助産師の技能基準には、「特定の救急医療処置を施す能力」(救命措置など)が含まれています。

「妊産婦の健康を守る基金」2010年活動報告(1)

緊急産科・新生児ケアの技能を持つ助産師の育成 ― カンボジア

 

(4) フィスチュラ(産科ろう孔)の撲滅

フィスチュラは、一般に長時間におよぶ出産の過程で産道に孔(穴)があくことによって起こる疾患です。帝王切開などの適切な医療ケアで予防することができ、多くの場合において治療が可能です。世界保健機関によると、毎年5万人から10万人の女性がフィスチュラを患っており、アフリカやアジアでは推定200万人の女性が治療をしないまま、失禁や下肢障害、社会的な疎外といった苦痛を抱えています。「妊産婦の健康を守る基金」は、「フィスチュラ撲滅キャンペーン」を通じてミレニアム開発目標5(妊産婦の健康の改善)に貢献しています。
フィスチュラ撲滅キャンペーン」では、各国でフィスチュラの予防や治療、患者の退院後の社会復帰支援を推進しています。予防に関しては、専門技能者の立会いによる出産、および緊急産科ケア体制の整備を進めています。また、外科治療をする簡易診療所の設置や院内施設の整備、医師の確保をする一方で、利用者の経済的負担を軽減するよう働きかけています。
このキャンペーンにより、2010年には5,000人以上の女性がフィスチュラの治療を受け、1,500人以上の専門技能者がフィスチュラの治療技術を習得することができました。また、潘基文(バン・ キムン)国連事務総長や、クリントン米国務長官をはじめとする各界の有力者が、フィスチュラについて公の場で言及したことにより、メディアで取り上げられる機会が増え、この疾患に対する認知度が国際的に高まりました。しかし、サハラ以南アフリカなど、予防や治療体制がまだ行き届いていない地域があるため、引き続き国際社会および各国政府による支援が求められています。

治療後、フィスチュラを患う女性を助けているグル・バノさん(パキスタン)

「妊産婦の健康を守る基金」による活動は、国連機関や各国政府、NGOなどの市民社会と連携して行われています。2015年までにミレニアム開発目標5(妊産婦の健康の改善)の達成が特に危ぶまれている国を支援しており、2010年はサハラ以南アフリカ、アジア、ラテンアメリカおよび中東の30カ国を中心に支援しました。また、この30カ国を含む42カ国において「フィスチュラ撲滅キャンペーン」を実施しました。

運営費に関しては、2010年は、約2,700万米ドルの活動予算から、約2,100万米ドルが支出されました。残金は2011年の活動に充てられます。


これからの活動

ミレニアム開発目標5の「2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減する」という具体的目標を達成させるためには、妊産婦死亡率の年間削減率を、現状の2.3%(1990年~2008年)から5.5%に引き上げなくてはなりません。また、「 医師・助産師の立会いによる出産の割合を90%に引き上げる」というもう一つの具体的目標を達成させるためには、助産師不足が深刻な38カ国において、11万2,000人の助産師が新たに必要であるといわれています。「妊産婦の健康を守る基金」では、引き続き4つの主な活動分野において、必要な医療物資や資金の確保に努めていきます。また、2013年までに60カ国に支援を拡大する予定です。

「妊産婦の健康を守る基金」の詳しい活動については、「Annual Report 2010: Maternal Health Thematic Fund」をご覧ください。

国連人口基金東京事務所では、皆さまからの寄付を受け付けています。いただいたご寄付は、この「妊産婦の健康を守る基金」に組み込まれ、妊産婦と新生児の命と健康を守る活動に充てられます。ご協力いただける方は、寄付のページをご覧ください。

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